出版社内容情報
2005年2月に日弁連により出された「手話教育の充実を求める意見書」を掲載するとともに、法律、教育、言語、歴史等の様々な方面の専門家およびろう者自身の立場から、意見書の意義・問題点を分析。手話と日本語のバイリンガルろう教育のあり方を探る。
はじめに(全国ろう児をもつ親の会・副代表 玉田さとみ)
1 手話言語と言語政策(イ・ヨンスク)
2 日本手話はろう者の魂(羽柴陽介)
3 明治後期の東京盲唖(聾唖)学校における教育内容の歴史的一考察(野呂 一)
4 ろう児の言語発達と教育――言語教育の観点から(佐々木倫子)
5 日弁連「意見書」と人権救済申立(小嶋 勇)
6 手話教育の充実を求める意見書
おわりに(小嶋 勇)
はじめに(全国ろう児をもつ親の会・副代表 玉田さとみ)
提 言
「1 国は、手話が言語であることを認め、言語取得やコミュニケーションのバリアを取り除くために以下の施策を講じ、聴覚障害者が自ら選択する言語を用いて表現する権利を保障すべきである」
二〇〇五年四月。日本弁護士連合会が「手話教育の充実を求める意見書」を発表した。そこには、冒頭からろう教育の本質に触れることが書かれていた。
「全国ろう児をもつ親の会」が発足したのが二〇〇〇年八月。当時、日本のろう教育は暗黒時代の終盤を迎えていた(現在でも、一部のろう学校では当時と何も変わっていないことを記憶しておいてほしい)。日本の教育現場において「親」という存在はきわめて弱い。本来なら、保護者である「親」は子どもたちに代わる教育受益者の当事者であり、教育現場においてもっとも重要視されるのが「子と親」であるはずだ。しかし現実は違う。いじめや不登校を経験したことのある者なら、学校が子どものためではなく指導者のために存在していると感じたことが少なからずあるであろう。ろう学校は、その最たるものと言える。どんなに大きな声で、何度叫ぼうとも、日本手話による教育を求める親子の要望は聞き入れられることがなかった。これが、私たちを「人権救済申立」という手段へと導いた一番の理由である。
二〇〇三年五月、全国のろう児とその親一〇七名が、ろう児の言語である日本手話による教育を求めて五年の歳月をかけ「人権救済申立」を行った。一般社会は「ろう学校で、手話が使われていない」という事実に驚き、申立に賛同する署名は、わずか半年で六万人を超えた。申立の趣旨は大きく分けて以下の三点である。
1 ろう児にわかる言語で教えてほしい
2 ろう者教員を多く採用してほしい
3 ろう学校教員に手話研修の機会を保障してほしい
こんな当たり前のことが、今までどうして行われてこなかったのか? 私は一人の親として疑問でならない。日本弁護士連合会が出した意見書は、昭和八年から今日にいたるまで誰も変えることができなかった日本のろう教育の根幹にかかわるものであり、きわめて画期的な内容と言える。その重要性は、申立に反対の見解を公表した全日本ろうあ連盟でさえ日弁連に「お礼」に行ったことからもよくわかる。この意見書は、申立を行った全国のろう児とその親一〇七名と、署名してくださった全国六万人の賛同者が勝ち取ったものであることは間違いない。この場を借りて、応援してくださった方々に心から御礼を申し上げたい。
全国ろう児をもつ親の会では、申立と平行して内閣府に「日本手話と書記言語によるろう教育」という特区提案を行ってきた。そして、意見書から二ヶ月後の二〇〇五年六月、ついに日本政府は口話教育を基本とした日本のろう教育の歴史に事実上のピリオドを打ち、私たちが目指す「手話と書記日本語による教育」を容認した。これでようやく日本のバイリンガルろう教育がスタートラインに立ったことになる。北欧から遅れること二五年、ベトナムから一〇年、アフリカ、タイ、ミャンマー、中国などからも大きく遅れたスタートである。それでも、日本のろう児たちの未来は確実に変わる。
全国ろう児をもつ親の会としては、この本が四冊目の出版となる。最初は、ろう教育界に一石を投じた『ぼくたちの言葉を奪わないで!』、次いでろう教育の専門書である『ろう教育と言語権』、三冊目が聞こえないことに対する価値観を変えた『ようこそ、ろうの赤ちゃん』。そして私たちは、今回の『ろう教育が変わる!』を日本のろう教育の七〇年の歴史に対する「結び」とし、新たな教育への旅立ちを宣言する。この本を読んでいただければ私たちが「口話か手話か」という低い次元でろう教育を考えているのではないことが伝わるはずである。さらに、日本のろう教育において、もっとも責任を持ち、もっとも勉強し進んでいるのが「親」であるということも理解してもらえるであろう。私たちが目指しているのは、ろう教育の選択肢として日本手話と書記日本語という二つの言語を獲得する「バイリンガル」だ。そして、今、この瞬間からそれがスタートしたのである。
内容説明
手話と日本語の“バイリンガルろう教育”がいよいよスタートします。ろう教育が変わる!ろう児たちの未来が変わる。
目次
1 手話言語と言語政策
2 日本手話はろう者の魂
3 明治後期の東京盲唖(聾唖)学校における教育内容の歴史的一考察
4 ろう児の言語発達と教育―言語教育の観点から
5 日弁連「意見書」と人権救済申立
6 手話教育の充実を求める意見書
著者等紹介
小嶋勇[コジマイサム]
中央大学法学部法律学科卒業。1995年4月弁護士登録(東京弁護士会)、2001年7月勇法律事務所開設、1998年4月から東京弁護士会子どもの人権救済センター相談員。中央大学法学部講師(法曹演習)、日本大学大学院法務研究科講師(公法)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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