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メキシコを知るための60章

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  • サイズ B6判/ページ数 356p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784750320304
  • NDC分類 302.56
  • Cコード C0336

出版社内容情報

サボテン、タコス、テキーラetc.今日世界中に流布するメキシコ・イメージはどのように形成されたのか。メキシコの民俗文化の誕生を軸に、これまで語られてこなかった点に着目して政治・経済・社会・歴史・文化などを概説した初のメキシコガイドである。

はじめに
1 民俗芸能
第1章 メキシコ民俗舞踊――メキシコ形成の歴史絵巻
第2章 ダンサ、バイレ、バレエ――伝統の占有
第3章 征服の踊り――正義の民俗的表現
第4章 マリアッチ――メキシコ国民音楽
2 民俗芸能の裏舞台
第5章 地 誌――さまざまな文化を生み出してきた多様な自然環境
第6章 動植物――われわれの生活に欠かせない新大陸原産の動植物
第7章 ミルパとチナンパ――耕されるメキシコ
第8章 メキシコ人の食卓――異文化の出合いが生んだ味とマナー
第9章 民族構成――メスティソ神話の形成
第10章 先住民言語――囲い込まれる民族文化
第11章 民族服――身体にまとわれた風土と歴史
第12章 市 場――民族文化の縮図
第13章 ジェンダー――メキシコ人男性がマチョである理由
3 フィエスタ装置
第14章 教会堂――生活の原点・祭りの舞台
第15章 仮 面――先スペイン期の伝統とヨーロッパの伝統の混在
第16章 村祭り――個人的信仰とナショナル・アイデンティティの交渉
第17章 祭礼組織――共同体規範と個人主義
第18章 巡 礼――ローカルな信仰を国家アイデンティティにつなぐ
第19章 宗・ルネッサンス――植民地期先住民が描いたメキシコ
第33章 伝統技術と新しい工芸――メキシコ民芸品の原点
第34章 グアダルーペの聖母――メキシコ人の愛国心創世神話
第35章 イエスの花嫁と甘い伝統――ユニバーサルであることのメキシコ的表現
第36章 都市の祝祭と村祭り――植民地支配の一形態
第37章 メキシコ・バロック――カトリックに育まれたメキシコの美
第38章 混血社会の肖像――純血主義と混血化の狭間に
6 民俗芸能誕生への胎動
第39章 メキシコの独立――英雄誕生の物語
第40章 米墨戦争――「反米」というアイデンティティの起源
第41章 自由主義改革と保守派の反動――地方ボスたちの夢物語
第42章 ディアス体制と「近代化/西欧化」――開発独裁が目指したもの
第43章 カスタ戦争――新生メキシコ国家の民族問題
第44章 メキシコ革命――メキシコ現代史を創る
第45章 反革命運動――革命諸派「共通の敵」の出現
第46章 農地改革――「土地と自由」を求めて
第47章 インディへニスモ――先住民政策の変遷
第48章 メキシコ・ナショナリズム――メキシコ的であることの追求
第49章 国民経済建設の試み――「
杓谷茂樹、谷洋之、三澤健宏、横山和加子

はじめに
 テキーラとサボテンの国であるメキシコではメキシコ人男性はくちひげをたくわえ、ソンブレロというつばがものすごく大きな帽子をかぶっている。メキシコに関して多くの日本人はこんなイメージを思い浮かべはしないでしょうか。多少、歴史に興味がある人なら、メキシコはかつてマヤやアステカなどの古代文明が栄えた場所であることを思い起こすかもしれません。あるいは、音楽グループのトリオ・ロス・パンチョスやマリアッチ音楽、食べ物のタコスなど、いわれてみれば、そんなものもあるなあと思い出す人もいるでしょう。
 しかし、私たちはなぜこうしたものあるいはイメージとメキシコとを結びつけて記憶しているのでしょうか。そういったものあるいは情報がメキシコから直接もたらされたのだとしたら、メキシコにおいてそれらを結びつけるアイデアはそもそも何に由来するのでしょうか。また、なぜそうしたアイデアが日本で流通しているのでしょうか。
 そもそもメキシコにあるものなのだから、そういったものがメキシコを表象するのは当たり前ではないか、ましてや、メキシコの特産物や文化であるのならば、そういったものが外国に出回るのは当然だ、と考えたとしても不思議でかも、その語りのなかで通常は、すでに流通しているイメージを流用したり再解釈したりするだけです。それらはメキシコをほかの国から識別するための単なる記号にしかすぎなかったはずなのに、一転してメキシコを説明するための原理ないしは論理と化してしまうのです。その場合、私たちはもはやメキシコの歴史形成とは関係のない外国人であり、メキシコを表すシンボルが生成された過程には一切関与していないという立場をとることは難しくなってしまいます。なぜならば、私たちはそのシンボル群を使用し、時には新たな解釈を付加することで、シンボルそのものを強化しているからです。それはシンボルを生成した人びとあるいは論理を擁護する行為にほかならないでしょう。
 メキシコはいまだ日本人にはあまりなじみのない国でありながら、メキシコを知る日本人はけっして少なくありません。しかも、メキシコを知る、おそらくすべての日本人はそれぞれに異なるメキシコ観を持っているでしょう。日本に流通するメキシコ・イメージはそうしたさまざまなメキシコ観の最大公約数であるのかもしれません。しかし、あえて繰り返しますが、なぜそれらが最大公約数たりえているのかを誰も説明してくれません。の背景を探ることは、私たち自身がそれを受け入れている理由を明らかにすることともつながっています。なぜなら私たちはメキシコから発信される情報を必ずしも鵜呑みにしているわけではなく、メキシコは異文化であるという認識枠組みに適合する情報だけを取捨選択し、時にはそれを増幅したり変形したりして私たちの意識のなかに格納しているからです。つまり、メキシコ・イメージ成立の過程を振り返ることは、私たち日本人はどんな眼差しでメキシコを見てきたかをも問い直す試みでもあるのです。その意味でメキシコ・フォークロアはメキシコに対する私たち自身の眼差しを相対化する手段ともなりうるはずです。
 本書ではまずメキシコの民俗舞踊についてごく簡単に紹介しています。民俗舞踊はメキシコ革命後のナショナリズムと深く結びついた現象であること、さらには民俗芸能などのフォークロアにもメキシコ・ナショナリズムが大きな影を落としていることを理解していただくことが、第1部「民俗芸能」の目的です。
 第2部「民俗芸能の裏舞台」と第3部「フィエスタ装置」では民俗芸能が実際に行われる状況を理解してもらうために、メキシコの地理や社会、文化等に関して基礎的な情報を提示しの最大限の努力をしたつもりですが、個々の演技に関しては各執筆者に委ねざるを得ませんでした。演出家の意図が正確に伝わったか否かは別として、各執筆者は各自の演技に全精力を傾けているはずですので、個々の演技を楽しんでいただくという観覧の仕方もあるかもしれません。いずれにせよ、観客あってこその舞台ですので、観客である読者諸氏から忌憚のないご意見をいただけることが執筆者全員にとってのこの上ない喜びである、と同時に今後の励みにもなることを申し添えておきたいと思います。(後略)

内容説明

本書は、今日世界中に流布しているメキシコ・イメージが形成されるに至った歴史的背景について紹介する。そのなかでも、本書ではメキシコ民俗舞踊を代表とするメキシコ・フォークロア(メキシコの民俗文化)の誕生に注目している。

目次

1 民俗芸能
2 民俗芸能の裏舞台
3 フィエスタ装置
4 先スペイン期の伝統
5 ヨーロッパ的伝統との邂逅
6 民俗芸能誕生への胎動
7 ビバ・メヒコ!

著者等紹介

吉田栄人[ヨシダシゲト]
東北大学大学院国際文化研究科助教授。専攻は文化人類学。現在の主たる研究対象はメキシコ、ユカタン・マヤの宗教および伝統医療
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

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