内容説明
王朝社会に生きた源氏一族の壮大な物語は、紫式部が歴史書として描いた「虚構のなかの正史」であった。歴史・文学・考古学・芸術ほか幅広い視点から『源氏物語』の時代と後世への影響をみすえた新しい魅力に迫る。
目次
源氏物語とその時代
1 源氏物語の土壌(源氏物語の登場;源氏物語と王権;源氏物語の男と女;王朝貴族の生と死)
2 源氏物語の世界(検証・平安京とその周辺;王朝貴族と源氏物語;描かれた源氏物語)
3 現代に生きる王朝の遺産(源氏物語以後―注釈書を中心に;源氏物語と日本文化)
著者等紹介
瀧浪貞子[タキナミサダコ]
1947年大阪府生れ。1973年京都女子大学大学院修士課程修了。現在、京都女子大学文学部教授、博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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俊介
16
源氏物語をさまざまな観点から読み解く。なかでも、虚構である「物語」と、社会の現実との関係性を考察した章は印象的だった。当時実際には、制度としては一夫一妻制だったという。まるで一夫多妻かのように描かれるのは、あくまで物語上の虚飾らしい。確かに非日常の方が物語として面白くなるのは、現代だって同じ。目から鱗だったが、思うに、建前と実態との乖離が激しい社会ではあったのだろう(これも現代も同じ)。物語は現実とは違うが、むしろ、建前という「現実の虚構性」を暴き、実態に迫れるのは物語。古典からも読み取るべきことは多い。2022/01/10
読書記録(2018/10~)
0
様々な視点の複数名による論文集。瀧浪氏論文は特に興味深く、紫式部が「正史を凌駕する真実の歴史」を意識したとする。帝の人物比定を桐壺=宇多帝とし、正史途絶後からの書き継ぎを標榜した。朱雀院や冷泉院の名称は、おもに上皇御所とされた後院で、特定の人物を指さない抽象的な呼称。工藤氏による、物語の男女関係についての論文も印象的。妻として世間的幸福を獲得できる条件をまったく持ち合わせていない設定の紫の上をヒロインとするため、周囲の女性の不幸は決定づけられているという。2021/05/25