出版社内容情報
江戸時代、領主の圧政に耐えかねた百姓は、かずかずの一揆・訴訟を起こした。その訴状は、民衆の読み書き教材「目安往来物」として広く流布していく。紛争の解決方法が実力行使から訴訟へと変わる転換期に、彼らはいかに先人の苦闘の記憶を受け継ぎ、学び、権力と闘う力を身につけたのか。領主や幕府に訴えをなす民衆自身が主人公となる歴史。
内容説明
江戸時代、百姓一揆の訴状が民衆の読み書き教材として流布した。実力行使から訴訟へという紛争解決法の転換期に、彼らはいかに先人の記憶を受け継ぎ、学び、権力と闘う力を得たのか。民衆自身が主人公となる歴史。
目次
実力行使・神・裁判―プロローグ
目安往来物とはなにか
寛永白岩一揆と「白岩目安」
境界争論と目安往来物
目安往来物の成立と普及
学習教材としての目安往来物
一揆の力―エピローグ
著者等紹介
八鍬友広[ヤクワトモヒロ]
1960年、山形県に生まれる。1989年、東北大学大学院教育学研究科博士後期課程満期退学。現在、東北大学教育学部教授、博士(教育学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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bapaksejahtera
18
山城国一揆等の中世的自由の萌芽が武家支配に依って損なわれたとするのは近代的社会意識を投影した誤認。これは近年の歴史学により打破された。本書はその裏付け。近世は識字の普及に伴う文書の時代だ。膨大な文書の圧倒的多数が武士以外から作成された。カナや簡単な書取り、算用学習に続くのは書簡定型の獲得である。これを賄ったのが往来物という教科書であった。東北地方等では訴状文例がその一端を担った。それが目安往来である。中世的な実力行使の時代から裁判の時代へ。我々が観念する一揆は近世後期の「世直し」以降の物。目の醒める良書だ2023/05/13
アメヲトコ
8
中世の自力救済の社会が近世の公権的平和の社会へと転換するなかで、百姓達が訴訟のための知識を習得するうえで、往来物が果たした役割に光を当てた一冊です。寛永白岩一揆の訴状が、その一揆が公権力にとっては違法と見なされていたにもかかわらず、お手本として広く百姓たちに流布したという現象はとても興味深いところ。2019/01/16
mimm
3
36名もの百姓が磔刑に処された「白岩一揆」。17世紀に幕府へ宛てられた百姓一揆の訴状や境界紛争にかかわる訴状は「目安往来物」と呼ばれ、学習教材として出回っていた。実力行使から裁判へ、証拠として提出される文書が需要な要素となる。目安往来物の始まりと社会の変遷を解いた一冊。昔の人の落書きに、変わらない体質を見てほほえましく。うちの古文書は焼けてしまったので、悔やまれます。2019/07/29
コーリー
2
近世の村落間争論と百姓について、「目安往来物」から読み解いた本。中世の過酷な自力救済の世界から、裁判と訴訟によって問題を解決する時代へと展開していく中で生み出されたものが「目安往来物」であった。その存在が確認されている地域や数は限定的ではあるが、いまだ発見されていない「目安往来物」やもしくはその他の形で、訴訟対策が継続的に行われていたのだろう。自らの生存や利益を守ろうとする百姓の姿に逞しさを感じた。2019/09/07