内容説明
東条英機は、一個の人間としては美点もありましょうが、少なくとも首相としてはいいところがありません。なにしろ気が遠くなるような犠牲と被害を出した大戦争を始めた張本人なのですから。しかも彼を生み出し、彼を活躍させた戦前・戦中の日本の政治も問題だらけ。それだけに執筆も気が重かった。だが、だからこそ、同じ失敗をしないようにという意味で、こうした本が書かれる必要もあるのでしょう。
目次
東条英機からみた戦時日本
1.陸軍と政治
2.東条の首相就任
3.太平洋戦争会戦後の軍事と政治
4.東条政治の破綻
5.東条の退陣とその後―日本近代史と東条英機
著者等紹介
古川隆久[フルカワタカヒサ]
1962年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。専攻、日本近現代史。現在、日本大学文理学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nnpusnsn1945
56
東条英機の評伝。軍事官僚としては優秀であったが、やはり一国の首相としては問題が多いと言わざるを得ないであろう。もっとも、視野の狭さは周りの陸軍将校にも言えたことであるし、そもそも明治の制度(山県有朋が大きく関わる)に欠陥があった事も、あの敗戦の一因と言える。それぞれ著者が指摘していた通りであろう。2022/03/09
スズツキ
5
近年この当時の日本の指導者を擁護する声も上がってきているが、いきなり著者はバッサリと切り捨てている。個人の悲劇的な側面だけとりあげるのは愚の骨頂なんですよね。2014/05/24
竜王五代の人
4
太平洋戦争中の東条に焦点を当てた評伝。なんだかかんだか言われるけど、勢力範囲内とはいえ首相として初の外遊を行ったり、国内視察したりと行動力は大したものである。性格のまじめさや、陸軍軍人なのに現実の天皇に忠実にあろうとしたのも昭和天皇の認めたところであろう。しかし、政治家も官僚も陸軍の下級者も信頼せずすべて自分でやろうとした狭量さは大欠点。「国民を基盤とする近代軍隊を、国民を信用せずに作り上げようとした」山県有朋らの行きついた先が東条である、という著者の指摘には頷いた。2024/10/16
バルジ
3
コンパクトな評伝。東条英機個人にのみ焦点を当てるのではなく、戦時期の議会について記しているところに著者らしさを感ずる。官僚としては頗る優秀な登場だが、政治指導者には明らかに向いていないことがよく分かる。政治に不得手なのが承知されながら、周囲にそうした「政治」に通暁した側近を持たなかったのも政治指導者としての東条の限界を示しているのではないだろうか。 一点気になる部分を記すと、結論は紙幅の都合があるとは言えやや強引に感じてしまった。少し踏み込み過ぎていて説得力に乏しい記載で終わるのは残念である。2019/05/04
えむ
2
主に首相在任期に焦点をあてた東条英機の評伝。東条をとりまく歴史的な文脈の解説に力が入っており、単なる断罪などではなく、東条という人物を考える手がかりを与えてくれる。2018/08/15