出版社内容情報
歴史(学)上の障害者をテーマとした8本の論考と、障害史研究の動向と課題をまとめた2本のコラムを収録。
障害者は歴史上どこにでもいる人々であるが、歴史研究において彼らの姿が十分に意識されてきたとはいえない。史料においても歴史家の仕事においても、障害者は不可視化され、いわゆる「健常者」が歴史叙述の中心に置かれてきた。これは、歴史上、障害者が置かれた境遇を反映しているだけでなく、歴史研究のそうした状況自体が、社会における障害者の周縁化の一部をもなしている。
歴史上、障害者の置かれた立場には、社会規範・家族・医療・市民運動・国家による身体の管理など、多様な事項が関係し、どういう人が「障害者」に区分けされるのか自体が、これらの事項と深くからみあった歴史的産物である。自己表現に制約をもつ人々が、自分の力で、また周囲の人々とともに生きてきた、その姿に向き合うことは人文学としての歴史学の課題であり、本書は、歴史(学)上の「主体」としての障害者の姿に目を向ける。
2024年史学会大会シンポジウムをもとに編集。
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〈目次〉
はじめに 池田嘉郎・北村陽子
1章 障害をめぐる歴史研究の観点──日本史の立場から 高野信治
2章 日本古代の疾病(障害)者と地域社会 藤本 誠
3章 健康思想・衛生思想の展開における「障害」理解の思想と構造──「衛生」は「障害」をいかに捉えてきたのか 瀧澤利行
コラム1 なぜ今、「障害者と歴史学」なのか──アジア史・ジェンダー(史)研究から問う交差性 小浜正子
4章 ロシア内戦の渦中における障害者兵士 池田嘉郎
5章 スポーツを通した戦争障害者の社会への「統合」──20世紀ドイツの事例 北村陽子
6章 楽善会の力動──明治初期の東京における盲教育の推進 木下知威
コラム2 障害史とは何か──欧米の研究動向からみる成果と課題 中野智世
7章 ダウン症のある子どもを育てる母親たちの想いと願い──1920年代から1950年代までのイギリス 大谷 誠
8章 太平洋戦争末期の精神病院の患者たちの世界──食糧不足・監視・戦争への態度について 鈴木晃仁
あとがき 北村陽子・池田嘉郎
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【編者】
池田嘉郎/東京大学大学院人文社会系研究科教授
北村陽子/東京大学大学院人文社会系研究科准教授
【目次】