内容説明
1952年にエジプトの「7月革命」を成功させた無名の将校ナセルは、スエズ運河の国有化宣言を契機に、アラブ民族主義を掲げてアラブの民衆を熱狂の渦に巻き込んだ。そしてアラブ民族主義は1967年の第三次中東戦争の敗北とともに消え去った。しかし、ナセルの究極の願いは今も生き続けている。それは、祖国の真の独立であり、ふつうの人々の尊厳や権利の保障であった。その願いの実現は、2011年の革命を経験したエジプトだけでなく、私たちの課題でもある。
目次
ナセルなきあとの「ナセル」
1 「七月革命」への道のり
2 ナセルの権力掌握
3 スエズ運河国有化とアラブ連合共和国成立
4 ナセルの「社会革命」
5 アラブ民族主義の終焉
著者等紹介
池田美佐子[イケダミサコ]
1955年生まれ。津田塾大学国際関係学科卒業、ハーバード大学人文自然科学大学院博士課程修了、Ph.D.(歴史学/中東研究)。専攻、エジプト近現代史。現在、名古屋商科大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ジュンジュン
7
ナセル、振り幅の大きな評価。52年のエジプト革命、スエズ運河国有化宣言、アラブ民族主義の提唱者と華々しい活躍の反面、すべてを失った第三次中東戦争(六日間戦争)の完敗と失意の急死。もう少し長生きしていれば、挽回するチャンスもあったのに…。その意味でも、後継者サダトとセットで考えなければ彼も正しく理解できないように思えた。ただ問題なのはナセルもサダトも関連書籍が少ないこと。2020/04/28
CarpMeso
6
世界史学んで「この人すげえ!」って思えた、10人の中の1人には入るだろう人物。その詳細を紐解くと、「バランス感覚を備えた独裁者」という評になるだろうか。巨大帝国・イギリスとの対決と、アラブ民族主義という壮大な夢。トリックスター的なやり口と現実的な妥協の双方を駆使した。それでも、複雑怪奇な中東問題は克服できなかったし、独裁者の誹りも免れなかった。人ひとりの力の限界を感じると共に、絶えず現実的な打開策を模索する等身大の人間を感じた。民衆に光を与えた稀代のポピュリストが残した遺産は、夢追う苦悩と忍耐と希望か。2022/09/25
千住林太郎
5
エジプト大統領として、同国の独立と近代化に尽力したナセルの生涯と功罪を手短にまとめた本である。近代化は農地改革や公衆衛生の改善、教育の普及など一定の成果を収めたものの、強権的な政治や輸入代替工業化による財政赤字などのマイナス面ももたらした。また、副題にあるアラブ民族主義は、シリアとの連合国家の挫折にはじまり第3次中東戦争の敗北によって決定的に輝きを失ったものの複雑に入り組んだ中東をまとめる理想であったことは確かだろう。 今日のエジプトを理解するうえで、彼の生涯を理解することは欠かせない。そう考えた。2021/11/23
中島直人
4
(図書館)あまり知らなかったナセル。その軌跡を一通り知ることが出来た。2021/08/01
MUNEKAZ
4
アラブ民族主義を掲げたナセルの評伝。東西冷戦での立ち回りや周辺の中東諸国との関係など外交的な部分だけでなく、内政面での改革もコンパクトにまとめてある。カリスマ性や発信するメッセージの明快さなどの美点も印象的だが、内政・外政ともに過度に理想主義的であったりポピュリズム的な部分も目立ち、状況に流されがちな印象も受けた。いずれにしても52歳での急死は、唐突で惜しいと思わせる。2016/11/19
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