内容説明
西ヨーロッパの古代から中世への歴史的転換にあたって、カール大帝が政治や文化や経済にはたした寄与は極めて大きなものがあった。それはこの傑出した王の個人的資質もさることながら、彼が活躍した時代相との幸運な巡り合わせというものもあった。本書ではこれを、西暦一千年紀後半に世界システムが実在したとする最新の仮説を軸とした文脈の中で考察した。
目次
カール大帝のヨーロッパ
1 カール大帝の系譜を遡る
2 外征と国際関係
3 カールが築いた統治組織
4 社会と経済の姿
5 文芸の復興と宗教規律の改革
6 「西ローマ皇帝」戴冠と「帝権の革新」
著者等紹介
佐藤彰一[サトウショウイチ]
1945年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専攻は西洋中世史。現在、名古屋大学名誉教授。博士(文学)。主要著書『修道院と農民―会計文書から見た西洋中世形成期ロワール地方』(名古屋大学出版会1997、日本学士院賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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S.Mori
16
この山川出版の世界史リーフレットは、私のような歴史好きにはたまらないシリーズです。この本ではカール大帝の業績だけに焦点をあてるのではなく、より大きな歴史のスケールの中にカールを位置づけようとしているところが興味深いです。カールに率いられたヨーローッパは単独で発展したのではなく、イスラム世界や東方世界の繁栄に刺激されて絶対王政が確立されていったとのこと。在位中は戦争に明け暮れながら、文芸復興(カロリングルネサンス)にも力を入れたこの皇帝の二面性の中に、善悪で単純に割り切れない歴史の面白さを感じました。2019/11/30
Fumitaka
5
カール大帝時代のフランク王国の国制の整備について記述。その背景にはアッバース朝による地中海の経済活動の活性化があるとし(pp. 89-93)、佐藤彰一先生の意見では、カールという名前自体もアングロ=サクソンの言語に由来して(p. 11)、おそらくフランク王国の当時のイングランドとの交易に関係した命名だとする。こうして見ると通商関係という主題が本の全体を貫いていた気がする。カロリング朝の成立とカール君の戴冠までの後継者争いはさながら『ゲーム・オブ・スローンズ』の様で、本物のお家騒動は怖い。2022/07/06
スプリント
5
ヨーロッパを東西南北駆け巡って領土・権力拡大に奔走した功績はまさに大帝にふさわしいものがあります。内容もコンパクトにまとまっていて読みやすかったです。2015/04/17
ユーディット
5
山川出版は教科書の専門書店でつまらないのが売りですが、売れ線に無関係に真面目な本を安価で出している点、愛してます。佐藤先生は文章が素晴らしいので専門的な内容でも読めるのではないでしょうか?ヨーロッパ史を勉強する人はまずカール大帝を抑えましょう2015/01/28
たけぞう
5
カール自身の事績を追うというよりは、当時の社会・経済の構造の中にカール大帝を位置付けようという本(なので伝記的な内容を期待する向きには薦めない)。カールの時代にはアッバース朝を中心にした経済活動がユーラシア大陸全域を巻き込んで活発に行われており、それがフランク王国にとって「幸運」であったという、ピレンヌ・テーゼとは真逆の捉え方に立っている。2013/12/29