内容説明
永田鉄山(一八八四~一九三五)昭和期の陸軍軍人。帝国陸軍きっての逸材として総動員体制を推進し、政・官・財界から期待されながらも、陸軍派閥対立の犠牲となって刺殺された永田鉄山。激変する国際環境と、熾烈な権力闘争の中で、一貫した信念と大きな理想を持った素顔を解明する。
目次
はじめに―永田鉄山はどのように語られてきたか
第1章 陸軍エリート将校への道
第2章 軍事官僚としての勇躍
第3章 政党政治との共存を目指して
第4章 満州事変、起こる
第5章 派閥対立の渦中へ
おわりに―永田鉄山を通して見た戦前日本のすがた
著者等紹介
森靖夫[モリヤスオ]
1978年兵庫県生まれ。2008年京都大学大学院法学研究科博士課程修了。2010年京都大学次世代研究者育成センター助教(白眉)。現在、同志社大学法学部助教。京都大学博士(法学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
12
昭和史において最重要と思われる軍人の評伝。永田が第1次大戦後の総力戦時代に対応するために、軍民一致の国防体制という国家総動員体制の構築を目標に、一貫した軍政をになってきたことが詳述されている。伝記物の常として、著者が対象に感情移入してしまうことを割り引いても、その清廉な人物像がよく伝わってくる。こうしたミクロなアプローチから帰納的に政治情勢を検討する手法は、担い手が人であることから有効だと思う。だが一方その人も組織の一員であり、自分の意思だけでは如何ともしがたいこともあることも捉えられている。良書だ。2015/08/05
MUNEKAZ
8
永田鉄山の評伝。軍人としての怜悧さとともに家族との交流もしっかり描くことで、永田の人間的な温かみも感じさせる。「総力戦体制」のために永田は政党との提携と国民の国防意識の向上を重視した。その漸進的な姿勢は、関東軍や青年将校たちの異なるベクトルにあり、故に陸軍内の派閥抗争で命を落とすことになる。彼が凶刃に倒れなければというイフも考えたくなるが、北満地域の確保という大目標は関東軍と変わらないので、結局史実と同じ道を辿りそうな予感も。また世論の不定見さを嘆いている姿も印象的。デモクラシーと向き合った軍人である。2025/05/22
nagoyan
3
優。「永田の前に永田なく、永田の後に永田なし」と謳われた旧陸軍きっての偉材永田鉄山の伝記。永田は、軍人として視野広く、洞察力も鋭いのは無論、人格識見にも優れ、その深い思索からは恰も一個の哲学者のようである。青年時代から軍の任務を平和維持におき、第一次大戦の悲惨から平和を究極の目的としつつも、むしろそれゆえに総力戦化においては軍事・国防は軍人の独占ではなく国民・社会全体によって担われるべきとする理想を抱いた。しかし、軍の統制崩壊等の問題と格闘するなか志半ばで凶刃に斃れる。(続く)2011/08/20
yasu7777
2
★★★★☆ うまくまとまっていて読みやすく、内容の程度も良かった。このミネルヴァ日本評伝選は面白そうな予感がする。2018/01/09
wuhujiang
1
永田の生涯・思想に焦点を当てた本。人生の各段階において永田がおかれた立場、とった行動、書簡/意見書等に現れている思想をわかりやすく紹介している。永田は確かに「総力戦論者」だが、軍備を強化し、国民を教化することで「戦える国」をつくる。結果として外国から手出しのできない戦争をしない国を作るのが理想であった。また国民の理解を第一とし、それに反し独断で行動を起こしたがる関東軍や皇道派を統制しようとした。というのが結論。若いころからの永田の見識、および改革への不断の努力は高く評価されてしかるべきであろう。2020/12/28