出版社内容情報
二・二六事件が語られる際、蹶起した将校たちは「皇道派青年将校」と呼び習わされてきた。しかしそれは、皇道派と青年将校らをひとまとめに排撃するための作為だったのではないだろうか。困窮する家庭が顕在し、政治は貧困でジャーナリズムにも批評精神の乏しい社会状況から生まれたあの事件は、八五年後の私たちに何を投げかけているのだろうか。いくつかの疑問点をめぐって二・二六事件に新しい光をあてる。
内容説明
農村の窮乏、広がる格差、政治の無策、批評精神に乏しい社会―こうした状況から生じた事件は今の日本に何を投げかけているのか。史実を虚心にたどり直す。
目次
第1章 先行の諸事件
第2章 襲撃
第3章 蹶起者の性格―待ちの姿勢・国体観・改造思想
第4章 軍部関係者による国家改造運動の系譜―団体と事件
第5章 西田派青年将校
第6章 皇道派・統制派
第7章 将校側の要望事項・陸軍大臣告示・収拾と真崎陰謀説
第8章 軍法会議―行動者の内面世界
第9章 事件以後
著者等紹介
堀真清[ホリマキヨ]
1946年生まれ。早稲田大学政治経済学術院・同大学院政治学研究科教授(日本政治史担当)を経て、早稲田大学名誉教授。ケンブリッジ大学客員教授やオックスフォード大学交換研究員などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイトKATE
31
二・二六事件から85年に出版された本書を読んでいると、事件を起こした青年将校達、思想上の師である北一輝、陸軍内で親分的存在だった真崎甚三郎らに、それぞれ思惑に“ずれ”が生じ、クーデター失敗へと至ったことが分かる。それよりも問題なのは、二・二六事件の要因が農村部の困窮や政財界における腐敗への怒りが根底にあるにもかかわらず、政財界も軍上層部、そして昭和天皇も二・二六事件後も人々の声に対して真摯に向き合おうとしなかったことである。その後の日本の破滅への経緯を見ると、二・二六事件から問いかけるものは未だに大きい。2021/03/04
金吾
27
皇道派と青年将校を区分するのは納得できます。本事件後、粛軍すべき軍が逆に地位を更に確保していったことがその後の悲劇に繋がったように感じました。2023/02/14
Fumihiko Kimura
1
いわゆる「皇道派」と青年将校は別物とする見解は説得的。が、青年将校が重臣らを殺害して後、思想的背景からして「待ち」の姿勢に入ったのであれば、事件を半熟の「クーデター」とすることもまた妥当ではないような気も。用語は難しい。2022/03/13
wuhujiang
1
あとがきに記載のある通り、二・二六事件研究の礎石になり得る本だと感じた。事件本体や裁判の経過を追うというよりは、事件当時の政治状況や青年将校ら蹶起者の思想解明に重点が置かれていることが特徴といえるだろう。本書の主張通り、「皇道派青年将校」という用語は事件後に行われた粛軍のための「合成写真」というのは正しいだろう。個人的に新鮮に思ったのは北の思想ともまたズレがあった点。北の国体論や農村救済論には大いに共鳴しつつも、また独自の思想をもった集団であったことは興味深い。2021/05/22
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- 和書
- 近世の朝廷制度と朝幕関係