出版社内容情報
異端審問記録ほか埋もれた古文書を駆使しつつ、教会権力に抗う地方農民のミクロコスモスを浮き彫りにしたギンズブルグ史学の初期傑作
内容説明
「では、なにがカオスを動かしているのか」「カオスはそれ自身で動くのです」異端審問記録ほか埋もれた資料を駆使しつつ民衆文化の深層にスリリングに迫った現代歴史学の名著。
目次
メノッキオ
村
最初の審問
「悪魔に憑かれている」?
コンコルディアからポルトグルアロへ
「高い地位にある方々に対して存分に語る」
古いものを残した社会
「かれらは貧しい人びとからむさぼりとる」
「ルター派」と再洗礼派
粉挽屋、絵師、道化〔ほか〕
著者等紹介
ギンズブルグ,カルロ[ギンズブルグ,カルロ][Ginzburg,Carlo]
歴史家。1939年、イタリアのトリーノに生まれる。ピサ高等師範学校専修課程修了。ボローニャ大学・近世史講座教授、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校教授を経てピサ高等師範学校教授
杉山光信[スギヤマミツノブ]
1945年、東京に生まれる。東京大学文学部社会学科卒業。東京大学新聞研究所助手、東京大学新聞研究所教授を経て明治大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
12
文字を独占する権力はその正当性を文書化しアーカイブするゆえに、歴史家は権力中心の歴史を扱う。一方、著者は逆に偶然残った「市民」の歴史を集め、「ミクロストリア」と名付ける。本書は、16世紀に異端の罪で火刑となった粉挽屋の男に対する裁判記録を辿る。宗教改革と印刷革命が起こり、貿易都市ヴェネチアに紙の書物が流入する時代、粉挽屋がいる水車小屋や風車小屋は人々が集まる情報ネットワークのハブだった。文字が読めた男は、牛乳からチーズがさらにうじ虫が生じるように神なしで世界は作られたのでは?という合理的考えを人々に語る。2020/04/08
hitotoseno
10
我々を導く理念は諸物質を組み合わせたところに宿るのではなく、諸物質たちから爪はじきにされた例外にこそ宿る、と述べたベンヤミンの方針を正しく受け継いでいるのは、結局ギンズブルグのみではないかと思う。ギンズブルグの方法論は「ミクロストリア」として体系化されつつあるが、本来ならもっと大きな射程をもっていい。王族たちの輝かしき足跡を追従していくのではなく、消え去った民衆たちの足跡を復元しつつ、単なる判官贔屓ではなしに時代精神を読み取る野心あふれる姿勢は、まぎれもなく「歴史の天使」の使命を受け継いだ者の身振りだ。2017/09/15
OZAC
8
粉挽き屋メノッキオの宇宙生成論は独創的で心惹かれる。「私が考え信じるところでは、すべてがカオスである、すなわち土、空気、水、火が渾然一体となったものである。この全体は次第に塊になっていった。ちょうど牛乳からチーズができるように。そしてチーズの塊からうじ虫が湧き出るように天使たちが出現した」(p.52)。2020/12/28
つまみ食い
6
支配層の文化と民衆文化、書物文化と口承文化の相互干渉に一つの論点があるが、その点でバフチンのラブレー論のように歴史学だけでなく文学や文化研究に関心のある読者にも非常に示唆的な一冊。農村読者の書物の貸し借りのネットワークなどもある意味メディア研究的に興味深かった。2023/02/07
africo
6
作者はミクロストリア(微細な物事や人物に対して集中的に歴史記述を行う手法)の創始者であり、本書もその代表例とされるような書物であるだけあって、破格に面白い。異端審問の裁判記録を読み込むことによって、メノッキオという無名の人物の生活、思想や、裁判に対する心の変化まで浮き彫りにする。当時存在していた書物への縦横無尽な参照も圧倒的である。ただ、仮説として、口承伝承の世界と貴族や知識人のアッパーな文化との接続が、この時代はあったと前提しているが、その部分がどうにも説明されてなさすぎて、信頼度を低くしているのが残念2020/04/08