内容説明
自らの失敗を個人のものとせず、法則化して公衆のものとするために費やしたエネルギーは、その時代や社会の背景から想像に余りある。これこそ今、わが国の医療界が直面している事故や過誤の事実公開、情報開示への教訓でなくて何であろう。本書の全ページにわたる苦闘のありさまと、改革を阻む勢力、ともに推進する友人たちの姿から、今世紀に生きる私たちが受け継ぎ発展させなければならない課題は何か。
目次
１ 謎を解く
２ 若き日々
３ クリミア戦争
４ 戦後検証
５ 隠蔽
６ 復讐
７ 名声と神話
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えすてい
8
ミステリーで暗い内容である。ナイチンゲールが何故戦争から帰国後90歳で死ぬまでベッドに寝たきりになり続けたのか。その謎をナイチンゲールの残した書簡から著者が読み解いていく「ミステリー伝記」でるが、謎は結局解明されずじまいだ。まだまだ史料の分析や批判がそこまで及んでいないことを意味する。しかし、著者が著者なりに読み込んでいった史料や書簡をもとに、陸軍の衛生改革に「鬼」として毅然と向き合っていったのか、ナイチンゲールの戦後しばらくの間唯一のテーマであり、ナイチンゲールを見るに当たり目をそらしてはいけない話。
かりんとー
8
今まで持っていたナイチンゲール像が打ち砕かれた。「クリミアの天使」と呼ばれ、献身的な看護を賞賛されたが、実は大失敗で、多くの死者を出した。ナイチンゲールは国の責任を告発しようと、病院での出来事を統計的にまとめようとした。そして結論として、病院で最も罪深いのは自分自身だったと気づく…。2018/09/05
こひた
3
ナイチンゲールが想定した戦場看護の課題は的外れで、その上に基礎的な衛生技術の欠如からかえって死亡率を高めてしまう。彼女は自戒の念からその事実を公開記録にしようとした。勉強不足で自分は漠然と偉人としか捉えていなかったが、周辺事情の広がりを知った上では印象が修正されつつも、強い女性のイメージは自省への姿勢によりかえって強まる。2014/06/19
in medio tutissimus ibis.
2
信じて戦場に看護婦として送り出した貴族の娘が、戦死者の病死の責任が誰あろう自分にあることに気が付いて、統帥権問題にかかわる政治ゲームに巻き込まれつつも全ては人間を完璧に近づける神の計画だと信じて公衆衛生の守護神になるなんて。神様には人の心とかないんか？ 軍隊がゴロツキの集まりではなく国家の繁栄を駆動する労働者の集まりになった時代だからこそ軍人の死人が平時においても問題にされたという時代要素から、国連が支援先の公衆衛生に干渉できないからワクチンなんか配ってるみたいな現代要素まで、読み物として滅茶苦茶面白い。2023/08/04
Marimo
2
この本を読んで、子どものころから英雄になりたくて、看護や外交を通して、大人になってから英雄になったナイチンゲールの格好良さを知りました。 フローレンスの姉（パーセノピ）が友達に宛てた手紙では、『妹はいわゆる慈悲心とか博愛精神などは、ほとんど、あるいはまったく持ち合わせていないと思います。妹は野心家－とびきりの－で、世直しがしたいのです。大いなる一撃を下すか、あるいは何か素晴らしい施設をつくって。それは博愛などとはまったく関係ありません。』とあるように、強い信条が彼女の行動を作ったようですね。2016/12/25
