出版社内容情報
15世紀スペインからF.カフカまで。文学・思想に改宗ユダヤ人=マラーノの精神の軌跡をたどる。
内容説明
カトリックによる宗教統制を掲げる15世紀末のスペイン。追放か改宗かを迫られ、たび重なる異端審問の弾圧を前に改宗を受け入れた者たちは、古いスペイン語で豚を意味する「マラーノ」の名で呼ばれた。スペイン、ポルトガルからエリザベス朝ロンドン、自由都市アムステルダムへ。反ユダヤ主義の風潮が強まりをみせた19世紀ドイツ、さらに文学作品に描かれた世界を舞台に、改宗ユダヤ人の引き裂かれた内面と、その昇華精神‐サブライムの展開をたどる。
目次
マラーノの誕生
マラーノの国王ドン・アントニオ
エリザベス朝ロンドンのマラーノたち
シャイロックの冒険
ウリエル・ダ・コスタの反抗
マラーノ文学の根源―フェルナンド・デ・ロハスと『ラ・セレスティーナ』について
スピノザの顔―知性のマラーノ
ハイネのマラーノ的魅力
カフカのなかの「マラーノ性」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
72
(前略)この本の主題はスピノザという異端の思想家を通じてマラーノの系譜を辿ることにある。 マラーノとは、「強制的にキリスト教へ改宗させられたスペインおよびポルトガルの旧ユダヤ教徒」のことである。そうしたマラーノたちの多くは隠れユダヤ教徒として生きることを余儀なくされたのだった。 マラーノとして生きるとは、キリスト教徒とユダヤ教、あるいは内的生活と外的生活という二重の生活を生きざるを得ないことを意味した。 2008/09/25
syaori
64
マラーノとは、レコンキスタ完成前後のイベリア半島で純粋なキリスト教国を目指す国の政策などにより改宗させられたユダヤ教徒のこと。面従腹背、しかしユダヤ教とキリスト教どちらの社会にも帰属できず、両者の間を彷徨うマラーノの意識状況がスピノザやハイネなどの人生を通して描かれます。本書はそれを通して彼らの精神が抱くことになった二重性の「昇華」の輝きを示しますが、その影として映し出されるのは大衆や国家の「一国家一民族一宗教」という他者排除型の思考形式でもあって、差別のなくならない現在の世界を顧みる機会にもなりました。2022/01/06
haikairoujin
2
「マラーノ」というのは、14-15世紀くらいにスペインやポルトガルといった地域で、強制的にキリスト教に改宗させられたユダヤ人のことを意味する。その言葉の意味はスペイン語で「豚」を意味する。この時代に狂信的になって国家権力をほしいままにしたキリスト教会によって、ユダヤ教信徒は激しく弾圧された。この本はその歴史を語っている。スピノーザ、ハイネ、カフカそのほかの著作を分析しながら、この特殊な歴史が語られていく。非常に興味ある内容だった。このような弾圧を受けたユダヤ人たちの歴史があることは、私の知識の中にもあった2012/02/01