出版社内容情報
神経細胞の活動を物理や化学の土台の上に立ってしっかりと理解することを目的とした書籍.初版出版から20年以上,生命科学系・薬学系・医学系・物理系・化学系・情報工学系のバックグラウンドを持つ学部学生~院生・研究者が,細胞レベルの神経生理学を学ぶ際の教科書・参考書として好評を得てきた.
神経細胞の電気的応答特性を並列等価回路モデルのもとで理解するという初版時からの本書の目的を維持しつつ,第3版の大きな改訂点は,光学的手法による神経科学(光神経化学)の紹介である.第3版では,神経ネットワーク・脳にかかわる7章・8章の内容を大幅に改訂した.7 章では,神経ネットワークの動作原理と情報表現についてのごく基本的な考え方の紹介と,神経ネットワークの動作原理の解明に用いられるようになった光学的な研究方法についての原理の紹介を行った.「神経ネットワーク」という言葉からは,閾値素子を連結した,いわゆるニューラルネットワークによる情報処理あるいは機械学習をイメージされることが多いが,本書では神経系を構成するニューロン・グリアが相互に連絡作用しているウエットな脳組織をイメージしている.また,8章も同様の考え方で改訂し,脳波についての記述を細胞外電位の文脈にまとめ,新たに「エファプティック相互作用」の項目を追加した.加えて,4 章~6 章にわたって,伝達物質,受容体,神経調節など神経化学的・薬理学的な内容を再整理した.
これから神経科学を学ぼうとする,あるいは周辺領域から神経科学分野に参入しようとする若手研究者にとって,脳・神経系における情報表現の主役であるニューロンの振舞いを理解するために最適の一冊である.
【目次】
第1章 細胞としてのニューロン
1-1 神経系:ニューロンのネットワーク
1-2 ニューロンの基本形態
1-3 ニューロンを構成する分子
1-4 ニューロンの基本的振舞い
第2章 細胞膜の電気的性質
2-1 静的な性質:膜電位の発生
2-2 動的な性質:膜興奮28
附録1 Hodgkin-Huxley の方程式
附録2 活動電位のシミュレーション
附録3 Hodgkin-Huxley 理論の確率論的記述
附録4 Hodgkin とHuxley による伝導性活動電位の取扱い
章末問題
第3章 シナプス伝達
3-1 シナプス伝達入門
3-2 シナプス前過程
3-3 シナプス後過程
3-4 シナプス間隙における過程
章末問題
第4章 イオンチャネルと伝達物質受容体の多様性
4-1 イオンチャネルの一般論
4-2 イオンチャネル各論
4-3 リガンド依存性イオンチャネル
4-4 神経伝達物質
第5章 単一神経細胞におけるシナプス統合
5-1 情報統合の場としての単一神経細胞
5-2 樹状突起の受動的性質
5-3 樹状突起の能動的性質
附録5 ケーブル理論
第6章 神経調節と神経可塑性:海馬ニューロンを例として
6-1 はじめに
6-2 神経調節とGタンパク質共役型受容体(GPCR)
6-3 神経応答の可塑性
第7章 神経ネットワークの動作原理の解明に向けて
7-1 はじめに
7-2 神経ネットワークの動作原理と情報表現についての考え方
7-3 神経細胞ネットワークの光学的研究手法:光神経科学小史
附録6 蛍光Ca2+指示薬で得られる信号と細胞内Ca2+との関係
附録7 光と分子からなる系の振舞い
第8章 細胞外電位
8-1 はじめに
8-2 体積導体中の軸索がつくり出す細胞外電位
8-3 細胞外電位記録と電流源密度(CSD)解析
8-4 脳波(EEG)
8-5 エファプティック相互作用Ephatic Interation
第9章 神経組織の誘電体としての性質と電気生理学的記述
9-1 はじめに
9-2 準静的条件における連続媒体中の電磁気学の概要
9-3 周波数に依存する誘電率・伝導率を示す誘電体の電磁気学
9-4 生体組織における電磁気学:電流源密度(CSD)解析
9-5 誘電分散:実効的誘電率・実効的伝導率の正体
9-6 電気生理学の基礎方程式の導出
附録8 複素誘電率と複素伝導率
附録9 誘電分散:Debye 方程式
神経生理学で用いられる単位と物理定数
索引
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- 和書
- 日本小説技術史