内容説明
メキシコでは再び恐怖が街を支配していた。熾烈を極める抗争、凄惨さを競ってSNSで拡散する虐殺映像。終わりなき血と暴力の連鎖に、ケラーは米国国内からカルテルへの金の流れを断つべく、囮捜査官を潜入させる。やがて見えてきたのは、アメリカ政財界とメキシコの巨額ドラッグマネーが絡む腐敗の構造だった。大統領をも敵にまわしたケラーが最後に下す決断とは―。40年に及ぶ血と暴力の連鎖は、国境を越えてアメリカ合衆国へ。全米ベストセラーの問題作。
著者等紹介
田口俊樹[タグチトシキ]
英米文学翻訳家。早稲田大学文学部卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
364
感無量である。しかし複雑である。あえていう。ケラーの物語がウィンスロウの主張に踏みにじられていないか。大統領選を境にカルテルは存在感を失い、前作で描かれた死の数々とは、また異質な無意味さで続々退場。そしてケラー対アメリカに焦点が絞られる。数多の屍を乗り越えたケラーの終着点は、果たしてここであるべきだったか。この結末で、彼に内包された絶望や怒りがどこか曲げられてはいないか。”今”だからこその熱量でもあり、期間を置いて、”今”を振り返るれるようになってから描いて欲しかった気もする。とても複雑な作品だ。2019/08/13
みも
201
『犬の力』『ザ・カルテル』から続く三部作完結。ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』トルストイ『戦争と平和』と比肩しても見劣りしない。人生を懸け幾度も読み直し咀嚼し続けたい超大作。この三作目は終始、群像劇の手法を貫く。そこに描かれるのは、囮捜査官として神経を摩耗させる男であり、グアテマラから命懸けで脱しながら強制送還される少年であり、ヘロイン中毒ゆえに売春や殺人を犯す女性であり、麻薬戦争の波に呑み込まれ傷つき死んでゆくその他大勢の人間達だ。その元凶こそアメリカであると、著者は自戒を込めてケラーに語らせる。2021/06/09
Tetchy
194
読書中、ここまで人生を賭け、生活を犠牲にし、心を病んで戦わなければならないものなのか、麻薬戦争というものは?との思いが頻りによぎる。だが作者は読者にそれを納得させる。彼は麻薬ビジネスに関わる人たちの点描を描くことで麻薬がでいかに人々を不幸にしていくか、悲惨な末路を丹念に描いていき、我々読者の良心に問いかける。麻薬戦争撲滅を己の正義として、信念として貫いたアート・ケラーという男の生涯は多くの罪を犯し、そして犠牲を伴った戦いだった。それはまさに現代の修羅道だ。もう彼との再会を望まない。静かにさせてやってくれ。2020/03/26
遥かなる想い
159
下巻は 囮捜査官シレロの捜査から始まる。 アメリカとメキシコをめぐる麻薬の攻防 …トランプを彷彿させるジョン・デニソンの 登場は 物語に不気味な緊張感を与える。 ケラーが 闘うアメリカ政財界と メキシコの カルテルとの癒着の真実 …ひどく壮大な 物語だった。 2020/01/08
のぶ
110
上下巻1550ページにわたる長大な物語を読み終えた。中だるみすることなく大変充実した読書だった。下巻に入り上巻の激しい麻薬戦争は一段落し、人物のドラマに移っていった。しかし内容はほとんど麻薬に関すること。カルテルを撲滅すべく奔走するケラーのチームとのやり取りは読ませどころだった。「犬の力」からの3部作で徹底して麻薬を扱った物語で、ウィンズロウが描きたかったものは何だったのか?読み通して少しは理解した気がした。話題になっているメキシコとの壁についても、根深い問題がある事がよく分かった。2019/08/21