出版社内容情報
「誰だって痛みを抱えて生きている。」
孤独な男子高校生のコテツは、島根の刀鍛冶に引き取られて暮らすことに―。
人生に立ちすくんだ少年が一歩を踏み出す、再生の物語。
青春小説の旗手が贈る、感動の傑作!
―――
「何のために刀作っちょう?」
主人公の沙コテツに、級友の土屋はあっけらかんとこうたずねる。
これは、問われたコテツ自身の疑問でもあるが、同時に作者の問いかけでもあるのだろう。そして、私の疑問でもあった。
「鉄には鉄のなりたい姿があっだわ」師匠はそう言う。刀になりたい鉄があるとするならば、そのように姿を整えてやることは、職人の止むにやまれぬ使命なのだろうか。自然のあり様は、人間にとって正しいことばかりとは限らない。
物語では使命を担った職人たちが、さまざまな傷や事情を抱えながらも、懸命に伝統をつなげていく。その姿に、人が生きていくということの困難と尊さを感じずにはいられない。
本著は刀を作る職人たちの葛藤を感じつつも、爽やかに読みきることができる。それは、作者の丁寧で力のある筆致に「ペンは剣より強し」という言葉の灯りを感じることができたからだと思う。
――まはら三桃(小説家)
【STORY】
突然火事にあい、火傷を負った東京の男子高校生・コテツ。
天涯孤独となった彼は、島根に住む遠縁の剱田かがりという老婦に引き取られることに。
かがりは、現代日本において唯一と言われる女性の刀鍛冶で、寡黙だが瞳に燃え盛る炎を持つ刀匠だった。
自暴自棄になり言われるまま島根にやってきたコテツだが、転校初日、己の火傷を見るクラスメイトの視線に耐えられず、学校へいけなくなる。
部屋にひきこもるコテツに、かがりは「学校へはいかなくてもいいが、そのかわり仕事を手伝え」と言う。
かがりの弟子であるコウやカンナに教わりながら手伝いをするうちに、徐々に作刀に興味を持ち始めるコテツ。
現代日本において、刀をつくる意味とはなにか?
かがりや兄弟子たちと関わり、悩みながらも、鉄を打ち、その熱に溶かされ、コテツは自らの心の形も変えていく――。
【目次】