出版社内容情報
子どもも、大人も、どなたでも、絵を描きにきて下さい――。
イラストレーターの実弥子は、下町の路地に佇む古い民家を借りて、小さな絵画教室を始める。ひっそりと開いた教室だったが、類まれな絵の才能を持つ少年とその母親、長いつきあいの編集者、近所の小学校に通う子どもたち、隣人の母娘など、さまざまな人たちが訪れるようになっていく。
画家だった夫の突然の死を受けとめきれずにいた実弥子だったが、絵を教え、ともに描くことによって、少しずつ生きる力を取り戻していく……路地の片隅で紡がれる人の営み、絵を通したやわらかなつながり、静かな時間が丁寧に描かれていく。
坪田譲治文学賞受賞作家がおくる、やさしい再生の物語。
内容説明
下町の路地にぽつりと置かれた立て看板。実弥子が古い民家を借りて開いた絵画教室「アトリエ・キーチ」は、いつしか、さまざまな人びとが集う場所になっていく。一緒に絵を描くというささやかな時間は、人の心に何をもたらすのだろう―。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
246
東 直子、二作目、小説は初読です。 本書は、アトリエ再生ハート・ウォーミング・ストーリーでした。ルイのような少年が将来天才画家になるのかも知れません。私も小さい頃は絵を描くのが好きでしたが・・・ 近所にアトリエ・キーチがあったら絵を描きたいなぁ🐘 https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008305.html2021/02/13
みっちゃん
160
「ミャア」と鳴く不思議な少年に誘われるように辿り着いた路地の奥、蔦の絡まる小さな古い家。寡黙な少年も、ここで絵画教室を開こうとする実弥子も、何か悲しみを胸の中に仕舞いこんでいる。1人、また1人と集い、賑やかになっていく穏やかな日々の描写と、明らかになる喪失の過去。「寂しくはないですか?」「今、すごくすっきりした気持ちなんです。寂しいって言えて」私も涙目になってしまう。亡くした時間も大事なひとも戻らない。でもその想いを口に出せて、受け止めてくれる人がいる事で、また一歩前に歩き出せる。優しい再生の物語。2021/06/15
nico🐬波待ち中
97
蔦のからまる古い一軒家に開かれた絵画教室"アトリエ・キーチ"。小学生から大人までが集まり一緒になって絵を描く。感性の赴くまま無になって、自分の内面にあるものを真っ白な画用紙の上に表現する。頭の中で生まれた、言葉では表現しにくいものが、絵になって外の世界へ広がっていく。自分の気持ちを言葉や形に変えることは大人でも難しい。子供なら尚更そうだろう。言葉数の少ない子供の気持ちも、言葉とは違う形になっても周囲の大人がもっと受け止められるといいのに。そのためには大人も想像力を鍛えないといけない、と自戒を込めて思った。2021/04/25
ゆみねこ
93
夫を亡くし失意の中で思い出の町を歩く実弥子は、三毛猫に導かれ蔦の絡み付いた古家にたどり着く。古家を借りてアトリエキーチを開くとそこは様々な人の集う場所になって行く。こんな素敵な絵画教室に私も通ってみたいって思いました。ルイくんの絵を想像しながらの楽しい時間でした。2020/12/08
Ikutan
84
『子どもも、大人も、どなたでも、絵を描きに来て下さい』三毛猫に導かれて辿り着いた蔦の家で、実弥子は小さな絵画教室を始めた。絵画の才能のある寡黙な少年、実弥子の担当編集者、小学生の姉妹、賑やかな二人の少年、隣近所の母娘、いつしかそこはみんなが集う場所になっていく。自由に絵を描くことで解き放されていく心。そして、急死した夫のことを受け入れられなかった実弥子自身も自分を取り戻していく。誰にでも好意的な実弥子に、心救われ優しい気持ちになれます。そして、絵が描きたくなっちゃいます。東さん直筆の装丁が素敵。おすすめ。2020/11/18