内容説明
19世紀の教師ジャコトの教えをモデルに、不平等に基づく「侮蔑社会」と「愚鈍化」の泥沼から今日の人間を解放する知性を探る。
目次
第1章 ある知的冒険(説明体制;偶然と意志 ほか)
第2章 無知な者の教え(書物の島;カリプソと錠前屋 ほか)
第3章 平等な者たちの根拠(脳と葉;注意深い動物 ほか)
第4章 侮蔑社会(重力の法則;不平等への情念 ほか)
第5章 解放者とその猿真似(解放する教育法と社会的教育法;人間の解放と民衆の教育 ほか)
著者等紹介
ランシエール,ジャック[ランシエール,ジャック][Ranci`ere,Jacques]
1940年、アルジェに生まれる。パリ第8大学哲学科名誉教授。1965年、師のL.アルチュセールによる編著『資本論を読む』に参加するが、やがて決別。1975年から85年まで、J.ボレイユ、A.ファルジュ、G.フレスらとともに、雑誌『論理的叛乱』を牽引。現在に至るまで、労働者の解放や知性の平等を主題に、政治と芸術をめぐる独自の哲学を展開している
梶田裕[カジタユウ]
1978年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科フランス文学専攻博士課程単位取得満期退学。専門はフランス現代詩および哲学
堀容子[ホリヨウコ]
1974年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻博士課程単位取得満期退学。専門は現代フランス小説(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Ecriture
13
19世紀初めに活躍したフランス人ジョセフ・ジャコトは、オランダ語の対訳がついたフランス語教材を学生に与え、半分までは暗唱し、それ以降は読むだけという課題を与えると、学生たちが教えてもいないのに見事な仏語を書けるようになったことに驚いた。カントも言うように、知性とは、賢い者が愚かな物に授けるものではない。知性は、教育が始まる時既に平等に、違った形で、万人に保持されている。これは、18世紀末の書物の普及具合とも無関係ではなく、知へのアクセスへの「平等」さが「普遍的教育」という思想につながっている。2015/06/20
FK
4
「教師とソクラテス」(P.44)で、「博識な教師」よりも「無知な教師」がいい、と。なぜか。彼なら生徒と一緒に考えていくからである。ところが博識な教師はあらかじめ答えを知っているので、生徒をそこへ導いていこうとする。授業をする際、指導案というのがある。結構細かく授業の進行を書かねばならず、そのため私は研究授業が嫌だった。授業など本来、予定通りに粛々と進むべきものではない。脱線や破綻があり、予定通りに行かないから面白い。できあがったメニュー通りに進められる授業は、さぞ味気ないものだろう。2011/11/05
有智 麻耶
4
イヴァン・イリッチ『脱学校の社会』を読んだ時と似た読後感。教育哲学の本かと思いきや、政治哲学に近い内容。知性の平等は、達成すべき目標ではなく、確認されるべき前提である、ということや、しかしながらそのような前提に立つ知性解放の教育は、制度によっては行えない、というところがもどかしい。単に奇妙な教育法(メソッド=how to)を紹介したものではなく、教育とは何か(what)という本質を考え直すきっかけになる。それから、ソクラテス批判の書を初めて読んだので面白かった。2017/01/24
堤
3
よい教師とは、説明家ではなく、自分の知らないことを教えることができる者である。Bon maître n'est pas explicateur. Rancière dit…“on peut enseigner ce qu'on ignore si l'on émancipe l'élève, c'est-à-dire si on le contraint à user de sa propre intelligence.”2016/07/31
koji
3
本書は、蘭語を解さない仏人ジャゼフ・ジャトコが仏語を解さないオランダ人に「テレマック」を教材に、翻訳を参考に仏文を暗記・復唱するように(半分まで、その後は読むだけで良し)伝え、その読みとったものを仏語で書くように命じたところ、何と全員が仏語を習得してしまったという挿話が始まりです。この普遍的教育は弟子に継承されていきますが、その進歩が逆に旧式教育(説明する教師による大衆の愚鈍化)を強固にするという矛盾の拡大への言及で閉じます。丁寧でち密な議論は時に退屈ですが、平等と不平等の哲学論に触れられ刺激を受けました2012/04/15