内容説明
出版文化が花開いた江戸時代、さまざまな知識が書物によって伝播していく中で、人びとのなかに「学び」への熱が高まっていった。彼ら・彼女らはどのような知識を求め、どのような体系のなかで知を自家薬籠中のものとしていったのか。そして、それを担う書物はどのように読者の手に伝えられたのか。当時のベストセラーである啓蒙書や教養書、そして、版元・貸本屋の記録など、人びとの読書と学びの痕跡を残す諸資料の博捜により、日本近世における教養形成・書物流通の実情を描き出す。
目次
第1章 近世初頭の書物と読書瞥見
第2章 近世における出版と読書
第3章 近世庶民の学問とは何か
第4章 江戸初心者の勉学
第5章 日常生活の中の文事
第6章 江戸美人の読書
第7章 再説・浄瑠璃本の需要と供給
第8章 食事作法
第9章 貸本屋略史
第10章 名古屋の貸本屋大惣
著者等紹介
長友千代治[ナガトモチヨジ]
昭和11年宮崎市生まれ。35年佐賀大学卒業、45年大阪市立大学大学院博士課程修了。大阪府立図書館司書、愛知県立大学・京都府立大学・佛教大学教授を歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きいち
33
江戸期に出版された多くの実用書や教訓書、習い事のテキストの内容を、地道に紹介していく。テキスト自体はほんとうに教訓なので、正直、そのものが面白みのあるものというわけではないが、何か、読み進めるうちに、きっと当時も、うわ、またうちの先生貝原益軒の受け売りだよ、なんてウザがってたんだろうな、と生徒側の気持ちになったり、売れ筋の教訓書や浄瑠璃本を再編集してもうけを狙う江戸時代版の意識高い系キュレーターの気持ちになってしまったり。◇名古屋の貸本屋の記録からは、今の書籍流通も一つの形態にすぎないことに気付かされる。2017/12/22
冬見
14
もう一回『御存商売物』を読みたくなった。合巻成立のくだりを読もうと思って本を開いて勢いのまま全部読んでしまった。現代とニュアンスは変わるだろうけど、食事作法の「麺るい喰やう」の「麺類喰様そばうどん素麺同じ事也。汁をかけくふはひれつなり。汁のこりたるは椀へあくべし。吸ふべからず」に笑ってしまった。汁をかけ喰ふは卑劣! 作法は今に残っているものも、今では「何だそれ!?」なものも。でも作法ってそんなもんよね。恥ずかしながら貸本屋大惣をこの本で始めて知った。興味が湧いたので調べたいと思う。2018/10/03
momen
0
江戸期の都市部での民衆の読書・勉学内容やシステムを詳しく解説。当時の出版物や浮世絵を多数引用し具体例が非常に豊富。製本技術の進化で貸本や安価な本が出回り、寺子屋や奉公で識字率も上がり人々は教養や娯楽として本を読む。学問指南やマナー本、浄瑠璃や笑話本、寺子屋入学の準備や貸本屋経営の実際など幅広く詳細に紹介。個人的に驚いたのは当時の女子教育。四書五経を読んで理解実践するなど男子教育ベースの本格的な学問推奨で、女子教育指南本が多数出版されており、江戸の民衆が現代より高い学問教養意識を持っていた事を伺わせる。2024/05/26