内容説明
エジプトのナイル川西岸の砂漠に点在するコプト教の修道院。現世と断絶し祈りの日々を送る人々を通して、初期キリスト教に思いをはせる。日本エッセイスト・クラブ賞受賞の珠玉のエッセイ。
目次
第1部 砂漠の修道院(ワーディ・ナトルンへの旅;砂漠の修道士;神の逃亡者;死と再生―フィールド・ノートから ほか)
第2部 異界の時間(異界の時間;都市と砂漠と死者たちのクニ;異界・境界・漂泊の旅;中東アラブ地域におけるキリスト教の運命)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YO)))
32
「神も、そして人間も存在しない空間」としての砂漠。その砂漠での祈りの日々、洞窟に差し込む陽光が正に神の光であり、パンが正にキリストのからだであるような、そのような瞬間が-安易に分かるとは言えないことも十分に伝わってくる中で-確かに訪れ得るのだと。有縁の世界を逃れて、神の逃亡者として、天の故郷への<あくがれ>に生きる、そのような生もまた選択し得るのだと。それを知ることで、心の果てが少し広がった気がする。2018/10/24
H2A
17
ナイル西岸の分離派キリスト教のコプト教修道院に取材した紀行文風のエッセイ。著者の講義を聞いた記憶ではコプトとはエチオピアなど非欧州の分離派の方が、かえって原始キリスト教の姿を残していると言っていた。エジプトの当時の社会生活が垣間見えた。後半は「異界」「脱出」をキーワードにした考察。短いが興味深くおもしろい本だった。2017/06/02
takao
6
p.157 聖地にむかって旅する巡礼者たちの群れのコロニーとして、オアシス都市が発達したのではないか。☆確かに日本でもそういう面がある。 堀田『路上の人』 けあだこ書庫913.6H96、『歴史の長い影』 堀米『中世の森の中で』森の島国 だ書庫209Se17.6 路上の人=巡礼者=異人 赤坂『異人論序説』 2023/06/20
しずかな午後
6
イスラム教徒が人口の大半を占めるエジプト。そんなエジプトには、原始キリスト教の後継者を自任する、コプト教徒と呼ばれる人々がいる。本書は、そんなコプト教会の修道院のドキュメンタリー(とエジプトについての学術エッセイ)。修道院は砂漠の真ん中にある。そこにあるのは風と砂ばかり。世俗のしがらみから抜け出した男たちは、神への愛を胸に砂漠へと向かう。砂漠の修道院の、静かに渇いた時間が非常に魅力的だ。また、洞窟で暮らす修道士から振舞われた熱い紅茶がなんだかとても美味しそうだった。2022/10/15
ドウ
6
エジプトの沙漠の奥地にある修道院を訪れる筆者のフィールドワークの記録、に基づくエッセィ集。ナイル川西岸、人里離れた沙漠は人も神もいない死者の国であり、修道士たちは生者とも死者ともつかぬさまを漂泊しながら、祈り、働き続ける。その描写の神秘さが魅惑的。映画「ハムナプトラ」で出てくる古代エジプトの宗教と同じような考え方がコプト教会にも通底している点も興味深い。失恋や母親からの逃避など、意外に俗っぽい理由でこの修道院の戸を叩くというのも、そしてここからは逃げ出さないのも、面白い。2019/02/17
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