内容説明
苔むした森林に覆われ、清流が刻む渓谷がいたるところに発達した日本の山々―、日本の山の特質と美しさに逸早く注目し、広く紹介に努めた、田部重治。名著『山と渓谷』の著者が描く、明治から昭和へ至る「静観的山旅」五十年の集大成。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ホークス
42
亡父からは登山も釣りもバイクも受け継がなかった。本書を手にしたのはささやかな供養の気持ちと懐かしさからだ。地図も揃わない明治〜昭和の山旅日記で、英文学者である著者の淡々とした筆致、抑制された自然描写に没入できる。登山が日本で受容される過程も見え、街や山村の暮らし、交通の有り様なども興味深い。乱暴なほど冒険心に富む時代だが、時おり吐露される現実的な苦悩が著者を身近に感じさせる。解説の通り、著者が愛したのは登山というより「山旅」の安らぎだったと思う。500ページ通読すると、渓谷と山林に抱かれた気持ちになる。2018/05/07
100名山
3
登山の記録もありますが、主に山里や峠を歩いた戦前から戦中の記です。 昭和11年の草津での記述に 途中、立派な文化住宅らしい建物の並んでいるところがある。近づいて見ると国立癩病病院とある。ここは雄大な高原の一角にあたり、草津から熱湯を引いて、患者のためにありとあらゆる設備が施されていると聞かされた。 とあります。 「ありとあらゆる設備」の中に窓の一切な独房があったことは田部が知る由もありませんが、この年に北条民雄の「命の初夜」が発表されたことを思うと、この時代のハンセン氏病のとらえ方が分かります。 2018/03/01
Shinako Kuma
2
山熱再燃により久々の再読。 謹厳にみえる著者が、したたる緑や壮麗な自然の造形の中に分け入って、嬉しくって嬉しくって仕方の無い様子なのが大好き。2015/08/25
yamakujira
2
明治から昭和へ至る著者の50年にわたる山旅をふりかえる。この50年は戦争をくり返した激動の時代、交通事情の変遷も興味深い。 (★★★★☆)
きょ
1
明治から昭和の登山の様子を知るにはよい本だと思う。名ガイドや昔の著名な山岳家とのエピソード、私生活での悲しみ、喜びなどが淡々と深みをもって綴られている感じ。藪を漕いで登山道を開拓しなければならなかった一方、木々の伸びていなかったところは、今より眺望も良かったのでは?80過ぎて自身のレリーフの前での写真の良いお顔、御子孫の方に、お話を聞いてみたいように思った。2012/12/07
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