内容説明
歴史を生きた全体として捉える、という困難な課題をあえて課すことから、歴史学の新たな問いかけが始まる。フランスの「アナール」学派を起点に、現代を生きる歴史家の営みを語り、新しい歴史の地平を望む、迫力ある論考集。
目次
第1部 全体を見る眼
第2部 歴史家の仕事場
第3部 社会史断章
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
31
歴史特に西洋史に対する考え方・研究法がわかりやすくかかれています。私はこのような本は比較的苦手なのですが、この著者の説明のしかたには非常に参考になるものが多かった気がします。特に図解を説明に多く使われているところはこのような分野の本には珍しいものであると思われました。小冊子ですがいい本です。2014/11/03
サアベドラ
12
フランス近世史、特にアンシャンレジーム期の研究者でアナール学派の日本への紹介者でもあった二宮宏之の文集。専門論文に近いものからエッセイや書評まで様々な文章が収録されており、いずれも著者の歴史に対する姿勢や考え方を読み取れるものになっている。1986年に出版されたものの再版であるため、1985年ぐらいまでの文章しか収録されていない。以降の著者の思考をたどるには95年刊の『歴史学再考』などを参照する必要があるが、現在は死後(2006年)に出版された5巻本の著作集(2011年)に当たったほうが手っ取り早いか。2014/02/13
左手爆弾
2
とりわけ19世紀以降に主流だった「実証主義的」な歴史学から、「全体を見る眼」の歴史学への転換を語った論集。資料を丹念に読み込む実証主義的研究は今もなお必要ではあるが、そこからさらに分け入って、「こころ」と「からだ」を持つ人間の生活へと分け入らなくては、歴史の真の姿へは接近できない。民衆の日常生活は繰り返しであり、それが別の繰り返しに移るときにこそ歴史的な変化がある(p.96)という指摘は教科書的な歴史記述に慣れた我々にとって、別の視点を提供するものとなるだろう。「心性」についてはもっと読みたかった。2015/03/11
たぬきのしっぽ
2
「大きな物語」が解体したいま、歴史を動かす原動力は政治や経済というよりは、人びとのこころとからだとして捉え直されるべきではないのか、という。そうしてはじめて、歴史家の個人的経験が歴史への問いかけとなる。それは近代的単位(国家、民族、階級など)により分断されてきた歴史の、その全体へと接近することにほかならない、ということか。2010/09/18
sg
2
社会史の入門書としてだけではなく、歴史学の入門書としても歴史とは何かを考える上で面白い一冊。例えば19世紀から20世紀にかけてのフランスにおける歴史研究の大まかな流れについての記述を読むと、E・H・カーの言っていた実証主義歴史学からの変化が良く分かる。フランスの歴史学者達の仕事やアンシャン・レジーム期フランスについての分析が多いのでフランスやヨーロッパの歴史についての基礎知識が無いと読みにくい一面は在るが、どの時代どの地域であれ歴史に関心が在る人には歴史の見方を考えるという点で面白い一冊だと思う。2009/12/07