内容説明
狷介孤高の象徴派の詩人が眷恋の地、ヴェネツィアに住みつき、初々しき筆致で以てこの水上都市に捧げる、散文詩による頌歌。「その名を聞くだに逸楽と憂愁の想ひ胸に湧く。試みに言ひ給へ、《ヴェネチア》と。」
目次
序詩
朱塗盆のインキ壷
幻覚
鍵
奇妙なる庭園
肖像画
ツァッテレ河岸
象
椀
硯箱
渡船場
美しき貴婦人
ベチーヌが気まぐれ
ラ・コメヂア
策略
売邸
画人
一寸法師
館邸
屋形
冬
恢復期
ブレンタ河
仮面
ヴェネチア短誦
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
兎乃
26
「世界名詩全集16巻」に納められたレニエの選集本。レニエは、森鷗外によって紹介され 永井荷風が強く推し 青柳瑞穂が荷風の指導を受けて翻訳した。青柳氏にレニエを教えたのが野尻清彦で、当時の文学青年達が愛読したであろう気配を感じる。1928年の作品Esquisses vénitiennes レニエがヴェネチアに旅した心象風景。赤いインク壺、次第に過去を夢想する、筆記道具箱écritoire…。晩秋のヴェネチアが冬を迎える。18世紀への愛惜。ローデンバックよりも明るく、寂寞感の微香、抑制の効いた散文詩。2015/09/12
きゅー
13
フランスの作家がヴェネチアへの愛を惜しみなく注ぎ執筆したこの1冊はまさに典雅の極致といえよう。目眩くイメージが瞼の裏で揺れ、淡い幻想を醸し出している。序詩に続く「朱塗盆のインキ壺」では、手元にあるインキ壺を媒体に古色蒼然たるヴェネチアの様子がいかにも懐かしさを込めて綴られており、遠くにあって愛する街を思い起こすさまは、しばし縁を重ねた女性について語るようであり、なんとも胸に迫るものがある。2016/10/05
rinakko
3
ヴェネツィアを愛で、ヴェネツィアに心酔し、言葉をささげるようにヴェネツィアを賛美し尽くす散文詩集。水の都を愛するがあまり、そこを己の宿命の地として囚われてしまった詩人が紡ぎだす、伸びやかで幻想的なイメージの連なりに、うとりうとり…。とりわけ、十八世紀へと向けられた憧憬の深さは、切なくもあり格別な味わいだった。少しずつ読んでいた。2012/07/12
若い脳
0
象徴派というよりはロマン派に近いような気がした。 2010/12/22