内容説明
妻子を残して失踪したが、八年後、突然姿を現した。だが彼の正体は…。奇妙な事件をもとに、当時の名もなき男女の〈歴史〉を、資料から得た知識と独自な想像力、証拠と可能性を交錯させつつ鮮やかに描きだす。
目次
1 アンダユからアルティガへ
2 欲求不満の農民
3 ベルトランド・ド・ロールの貞操
4 アルノ・デュ・ティルのいくつかの顔
5 手作りの結婚
6 仲たがい
7 リューでの裁判
8 トゥールーズでの裁判
9 マルタン・ゲールの帰還
10 物語作家
11 驚倒すべき物語、悲劇的な物語
12 足の不自由な人について
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サアベドラ
14
16世紀の南仏のとある農村に一人の男が現れる。彼は8年前から行方をくらましていたマルタン・ゲールその人で、村に残していた妻子と共に再び暮らしたいのだという。帰ってきたマルタンは妻との間に2人目の子を儲け、平穏に暮らしていたが、一方で村では彼に関する一つの噂が囁かれていた。曰く、あのマルタン・ゲールは偽物だ。本物はまだ帰ってきていないのだ……。著者はユダヤ系アメリカ人の女性歴史家。歴史書だが、事実は小説よりも奇なりを地で行く話なので一般読者でも十分楽しめると思う。問題は訳文が典型的な悪訳で読みにくいこと。2014/02/21
ヴィオラ
9
妻子を残して失踪した夫が、八年後、突然姿を現した。だが彼の正体は…って、これなんていう昼ドラ?的展開が楽しい。これが実話なんだから、中世あなどれんw それでいて、カトリックとプロテスタントの対立、女性の置かれた地位への考察、当時の裁判事情などなど、決して単純な「ニセ亭主騒動」ではないところが非常に楽しかったりします。2013/10/30
harass
7
民衆史の本だが一般人でも読みやすい。なによりも題材が16世紀フランスの事件で「家出した旦那が戻ってきたが偽物だった」という内容。三年以上も見知らぬ男とわかっていても黙っていた妻が裁判中に突然現れた実の旦那に観念して白状してしまう。実話だが物語として面白い。この事件を担当した裁判官が本を書いているのと、現存する判決文と当時の資料により当時のフランスの田舎の民衆の姿を活き活きと描く。16世紀の記録は乏しいが著者の知識に基づいた推察が説得力を持つ。当時の社会状況や生活の描写が単なる事件読み物だけにとどまらない。2013/05/13
YayoiM
2
本文よりも引用文献表の方が分厚いという、正統派の歴史書。非常に面白い裁判の実例で、家出して帰ってこない夫の代わりに全くの別人が夫として名乗り、奥さんもそれでOKとして一緒に暮らしていたが、途中で実の夫が帰宅してきて…という、映画の元ネタにもなった。中世の当時でも有名な事件だったようだ。中世というと流動性の低い封建社会を思うけれども、意外に人々は流浪していたのだなあと、非常に興味深く読みました。2018/03/13
Takao Terui
2
歴史研究を試みる際に「何を用いて、どのように語るか」を考える参照事例として、中々に興味深かった。マクロの社会・政治・宗教状況を踏まえた上で、個人の心情すら描き出そうとする箇所が印象的。2016/08/01