出版社内容情報
当麻(たいま)曼荼羅から発して浄瑠璃などに変奏され、薬まで生み出した中将姫の物語。そこには人々のどんな信仰や営みが息づいているか。名所化した説話の里の様態から読み解く。
内容説明
当麻曼荼羅の制作を発願した中将姫の物語は、室町時代以降、今日知られる継子譚の要素をそなえ、とりわけ近世には広く流布してゆく。絵解きされる掛幅絵や絵伝の制作に、いくつもの地に伝承される中将姫の「霊場」に、説話の実現態の種々相に、死後の安楽を願う人々の多様な心意を読み解く。
目次
1 蓮がいざなう浄土―中将姫説話の世界(蓮糸の曼荼羅;中将姫説話とは ほか)
2 つながる人々―説話画を読み解く(来迎図に込められた家族のドラマ;北出嘉兵衛のこと ほか)
3 中将姫を慕う人々―説話から伝承へ(国境のひばり山;五條市の仲山家 ほか)
4 尼寺へ集う人々―説話から広がる信仰(宇陀の青蓮寺と中将姫;絵巻・絵伝のメッセージ ほか)
著者等紹介
日沖敦子[ヒオキアツコ]
1978年、愛知県生まれ。名古屋市立大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了。博士(人間文化)。現在、文教大学文学部専任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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空満
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中将姫の説話はよく知られているが、このファンタジーの魅力がもうひとつ分からなかった。説話の重要な舞台の一つである「ひばり山」は三か所の伝承地があって、著者はそれぞれの土地に伝わった縁起・絵巻・遺物・旧跡などの内容と成り立ちを探求し、説話の多様さとその担い手を明らかにする。読みながら、中将姫とは薄幸の少女というよりも、この世の苦を引き受けて逆転させる聖女のイメージが浮かんできた。もちろんフイックションであるが、日本の仏教史ではこのような存在は稀なのではないか。この説話がすこし身近に感じられるようになった。2023/11/27