内容説明
いまアメリカで最も活躍する黒人女性作家(カリブのアンティーガ出身)の処女小説集。母と娘の関係、少女の成長、社会的鬱屈など、キンケイドの原点といえる物語が力強い言葉で語られる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
61
ひとつひとつの言葉、ひとつひとつの文節が、ひとりひとり存在者として存在していて、どの言葉もどの文節も無くていいということにも、それ以外の仕方で存在する、ということにもならない。あるいは張りつめた構図、凝縮した瞬間、の一枚のPHOTOのように、それらは存在する。あるいはそれらを無意識と呼ぶなら無意識と意識の間に境目なく、あるいは死と生も、川底と川面がひとつの川であるように存在する。飛翔する夢想はくっきりとした輪郭を持っている。そのリズムと転調を見事な日本語に移し替えた訳と相俟って散文詩の煌めく宇宙が広がる。2017/05/14
kankoto
3
自分にとってはかなり難解な作品だった。物語なのか何なのか分からず綴られている言葉をひたすら読むという感じになり戸惑った。ちょっと非現実的な想像の中の様な幻想的であったり。小説かと言うより詩の様な…それでそこからは詩を読む様な感じで読んでいった。解説を読んで母親のことを知ったり、彼女の生い立ちを知ったりした。それを踏まえて読めばもう少し理解できるのかもしれない。特に母親に対しての愛と憎しみと。 でも言葉を感じるままに読むのも良かった。2025/05/21
林克也
2
40年ぐらい前から、なんとなく気になっていたけど読んでいなかった作家。かなりヘビーな物語だが、作者の物の見方感じ方そしてその著し方に引き込まれてしまった。こういう感覚や感情の表し方は、今ならそれなりに対応できるが、40年前に読んでいたらちょっと無理だったかもしれない。読んでよかった。2021/11/14
おおた
2
200ページ弱なのにとても読むのに労を要する。たぶん原語ではリズム感があるんだろうけど、日本語になるとリズムの元となる環境自体の共有が難しいんじゃなかろうか。元はパトワだろうし、それにあたる方言ではなく独立した言葉は日本語にはない、ということばかり考えていた2009/05/04
ホグワーツ卒業生ナナツーコ
1
私小説と詩が融合したような文体で書かれた短編集。テーマは母親と娘。両者のそれぞれの視点で心情を描いているのがこの本の特徴。母親は支配的だが「母親」という役割をこなすのに倦怠感や疲労感を覚えている。娘は思春期ならではの反発心と母親へ愛情の狭間で揺れる複雑な気持ちを抱えている。感性が豊かな分、祖国であり舞台となるアンティグア・バーブーダは筆者には閉塞感漂う生きづらい土地柄だったのではないかと想像した。中でも少女から大人へ心の成長を遂げる最終章の「川底に」の生き生きとした心の描写は印象的だった。2023/07/27