内容説明
1906年、グスタフ・マーラーは宮廷歌劇場の総監督として、その生涯の絶頂期を迎えていた。ちょうどそのころ、ひとりの芸術家志望の青年がウィーンを訪れた。のちにナチスの独裁者として、世界を震撼させたアドルフ・ヒトラーである。20世紀初頭のウィーンの街で、同じ空気に触れた2人の運命は、その後ナチス政権下におけるマーラー音楽の徹底した弾圧という思わぬ形で結ばれる。その空白の期間に焦点をあて、マーラー自身の底流にあるユダヤ人としての意識を鋭く浮き上がらせたもうひとつの音楽史。
目次
第1章 ふたりの反逆者
第2章 暗黒への幕開け
第3章 狂気と指揮棒
第4章 廃墟のレクイエム
第5章 薄光のなかの祈り
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yk
3
時代が行ったり来たりして若干分かりにくい。アルマ・ロゼーの収容所における演奏活動は興味深かった。 ここまで政治と音楽が関わってると思わなかったからワーグナーが高校世界史に頻出する理由もわかった気がする。2011/10/12
くまこ
2
マーラーとヒトラーを結ぶのは、ワーグナー、ウィーン、そしてユダヤ。本格的なマーラー論やヒトラー論が展開されるわけではないが、様々なエピソードがドキュメンタリータッチで紹介されている。クラシックCDの解説を読むのも好きという人には、推薦できる一冊。個人的には、1938年にマーラー交響曲第9番を指揮したブルーノ・ワルターのくだりが印象的だった。また、『ファニア歌いなさい』という作品に興味を持った。アウシュビッツ第2収容所の女性楽団を指揮したマーラーの姪、アルマ・ロゼーが描かれている。2011/11/30
あんパパ
1
ヨーロッパの音楽や音楽家は色んなものを背負っている。2012/06/06
犬丸#9
0
★★★★☆ 地元図書館でハケーンし、読んでみたのである。 「マーラーとヒトラー」というタイトルは些か絞りすぎ。内容的にはマーラーを中心とするユダヤ音楽文化が20世紀に歩んだ受難の記録、といったところである。 面白かった。が、いかんせん20年前の作品、世界観も20年前のモノである。今の視点に立ち再構築されたら、もう少しグローバルな視野を持った好著になるのではないかと思う。 もっとも、文字と文字との間から滲み出るマーラーへの情熱は十分に熱く、それを感じ取れただけでも収穫はあったかと。 星3つか2007/10/03
pondeporlion
0
マーラーという作曲家の苦悩や苦難を書いた本。果たして、どれだけの人が、受難に満ちたマーラー音楽、いやユダヤ人作曲家の人生を知っているのだろうかと思わせる本だった。この本を読んで知ったのだが、マーラーやワルターだけでなく、多くのユダヤ人が今もなお音楽界に名演奏、名曲をのこし活動している。ストラヴィンスキー、クーセヴィツキー、バーンスタイン、今だとダニエルバレンボイム、ズービンメータ等等。普段からこうした音楽に隠された問題を理解して、音楽のルーツをたどりクラシックを聴きたいと思った。2015/08/26