内容説明
ポーの「モルグ街の殺人」(1841)に始まったミステリーが、明治になってようやく日本にも移入される。だが、当時数多く書かれた創作や翻訳は、いつしか歴史のなかに埋もれてしまった。それらを実見し、明治の探偵小説の全貌を初めて明らかにした待望の研究書。
目次
序説―黒岩涙香から横溝正史まで
第1部 日本探偵小説事始(涙香以前―成島柳北、神田孝平、三遊亭円朝;黒岩涙香の活躍;探偵小説論―黒岩涙香、内田魯庵、島村抱月)
第2部 花ひらく明治ミステリー(森田思軒と春のや朧;涙香につづく人々―丸亭素人、快楽亭ブラック、南陽外史;探偵実話の流行;硯友社の「探偵小説退治」;創作探偵小説の展開―半井桃水、尾崎紅葉、多田省軒;押川春浪と武侠冒険小説)
第3部 翻訳小説篇(涙香以後の翻訳―徳冨蘆花、柳圃散史、原抱一庵;乱歩の先駆者―菊池幽芳、暁風山人、羽化仙史;怪盗ルパンとソーンダイク博士;『新青年』創刊まで)
著者等紹介
伊藤秀雄[イトウヒデオ]
1925~。神奈川県生まれ。49年日本大学国文科卒業。長年にわたって黒岩涙香を研究し、『黒岩涙香―その小説の全て』や伝記をまとめた。ほかに『大正の探偵小説』『昭和の探偵小説』『近代の探偵小説』など
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感想・レビュー
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夜間飛行
191
日本の探偵小説は、明治20年代に初期の黄金時代があって、翻訳もの創作もの入り乱れて盛況だったらしい。やがて大衆の嗜好は実話ものへと移っていきブームは下火となる。黄金期に活躍した黒岩涙香、内田魯庵、島村抱月らの作品は入手が難しいし、いま読んで面白いかどうかわからないから、粗筋とさわりを読める本書は有難い。2024/02/08
cogeleau
0
結局、この一冊が明治時代の小説群への没入の道標べとなった。堅苦しい文豪たちを長い間、敬して遠ざけてきたが、唯一、黒岩涙香の探偵小説だけは何とか親しめそうに思えていた。著者の伊藤氏もそこから入り込んで、明治の探偵小説群という地底の大宝庫を発見したのだと思う。実は、当時何万点もの書籍が盛んに発行されていた。多くの作家たちはその生没年さえ記録されずに、書目と名前だけが残されていた。本書は特に探偵小説というジャンルに的をしぼって多くの忘れられた作家と作品を発掘し、詳細な解説を施している。☆☆☆☆☆ 2021/10/26