出版社内容情報
歴史時代作家クラブ賞受賞作『鳳凰の船』、第二作『楡の墓』に続く、明治から昭和に至る北海道開拓期を背景に描いた短編集。「時代小説ザ・ベスト2021」に選出された傑作「ウタ・ヌプリ」、樺太航路の玄関口が静かに見守る親子の情愛「稚内港北防波堤」、炭鉱の光と影を浮き彫りにし、ささやかな希望をこめた表題作など全五編。三部作、ついに完結!
内容説明
ゴールド・ラッシュに翻弄された人間の悲哀「ウタ・ヌプリ」(『時代小説ザ・ベスト2021』収録作)。新天地・樺太への玄関口が、静かに見守る親子の情愛「稚内港北防波堤」。戦争に躍らされた炭鉱の末路と、ささやかな希望「小さい予言者」(表題作)など、全五編。
著者等紹介
浮穴みみ[ウキアナミミ]
1968年北海道生まれ。千葉大学仏文科卒。2008年「寿限無 幼童手跡指南・吉井数馬」で第30回小説推理新人賞受賞。09年、受賞作を収録した『吉井堂謎解き暦 姫の竹、月の草』でデビュー。18年『鳳凰の船』で第7回歴史時代作家クラブ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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モルク
112
「鳳凰の船」「楡の墓」から繋がる北海道開拓もの。明治から昭和、大戦前後の5つの短編集。鰊が大漁だった時代、砂金採りのゴールドラッシュにに沸いた時代、そして炭鉱…人々はそれに群がり町は賑わう。そして最終話で表題作の「小さな予言者」で名前も住んでいる所も明かさず手続きが遅れ学校にいけないという転校生通称タクト。いたずら好きで知識も豊富、ピアノも弾ける上に如才がなく人気者。そのタクトの予言通り戦争に負け今は炭鉱は残っていない。また「日蝕の島で」も清々しい。三部作の完結編だそうだがだそうだが、もっと読んでいたい。2022/01/31
どんぐり
82
旭川出身の作家による北海道を舞台にした歴史小説5篇。明治時代ゴールドラッシュに沸く北見枝幸で男たちが一獲千金を狙う「ウタ・ヌプリ」。北海道の地質鉱床調査に従事したアメリカ人鉱山技師ライマンの「費府早春」。皆既日食観測で枝幸村を訪れたメイベル・トッドと彼女の寄贈本を受け継ぐ「日蝕の島で」。樺太と稚内を結ぶ航路の玄関口にあった「稚内港北防波堤」。そして空知の炭鉱の少年たちを描いた「小さい予言者」。表題作の舞台となった炭鉱街は、かつて身近にあった場所なので、懐かしさをもって読んだ。→2022/05/29
シャコタンブルー
56
北海道の開拓史を描いた5話の短編集。砂金採りで賑わうゴールドラッシュ、無限にあると思われた鉱物、鰊が大量に獲れた時代、炭鉱の歴史。それぞれが北の大地が一番賑わい、人々が集い、そしていつの間にか寂れて去って行く悲哀と人間模様が描かれ胸に去来する。5話の中では「日蝕の島で」が一番印象に残った。日蝕を求めて世界中から小さな島に研究者や観光客が集まる。それはカーニバルでありイベントであり儚いひとときの花火のようでもあった。一瞬のダイヤモンドリンクだったが、あの二人にとっては永遠に輝く思い出の結晶になった。2021/11/24
ちえ
42
根室、北見枝幸、稚内、空知、どこも人口減少が進んでいる。しかしかつては砂金のゴールドラッシュ、皆既日蝕観察隊、樺太への玄関口、炭鉱等で賑わった。喧騒が過ぎていく中での人々の姿。2篇目の「費府(フィラデルフィア)早春」は北海道全域の地質鉱床調査を任されたアメリカ人ライマンが主人公。どの話も人の愚かしさや寂しさと共に仄かな温かさ希望が残る。表題作「小さい予言者」の舞台は余りにも近く、高齢者から聴いていた話、現在、と重なり心に刺さり苦しい。戦争中の採炭増産、閉山…。虎杖と薄野原、山の端に沈む夕日…。目に浮かぶ。2022/06/19
あつひめ
37
時代は進み、ゴールドラッシュや炭鉱で一旗揚げようという者がどんどん北海道に押し寄せた。みんな夢を持って。炭鉱の町の話は実際に義母や夫に話を聞いていたのでとても身近で実際には体験していないのに大きなお風呂や町の映画館が懐かしく感じてしまった。今の北海道では人が離れていくばかり。昔を懐かしむって、どんなに貧しくても心の中で小さな明かりがポッと灯ったように忘れられないことがあるんだな。この北海道がまた夢を叶えられる場所になればいいと願う。先人たちの夢を私たちが受け継ぎ裏切らないように生きなければならないと思う。2024/05/30