出版社内容情報
りんご畑の納屋に眠っていた150枚の絵――。実在した画家の数奇な生涯を通し、芸術とは何か、愛とは何かを問いかける感動の物語。
玉岡かおる[タマオカカオル]
作家
内容説明
父が経営する銀座の骨董店が閉店し、そこで働いていた香魚子は自分の行く末や恋人との未来に不安を抱えるなか、ある画集を手にする。それは知られざる画家・上羽硯(ケン)の絵だった。その絵に衝撃を受け、津軽の地に飛んだ彼女を迎えたのは、ケンを慕う絵描き仲間の女性・フク。ケンの個展を銀座で開催するため奔走する香魚子であったが、ケンとフクの二人には、戦前からの“秘められた過去”があった―。実在の画家をモデルとした感動の長編小説。
著者等紹介
玉岡かおる[タマオカカオル]
1956年、兵庫県生まれ。神戸女学院大学卒業。87年、神戸文学賞受賞作の『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(新潮社)で文壇デビュー。2008年、『お家さん』(新潮社)で第25回織田作之助賞を受賞。執筆のかたわら、テレビやラジオにもコメンテーター、パーソナリティーとして出演中。大阪芸術大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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けんちゃなよ
15
ノンフィクション・フィクションの境界のギリギリの線に著者の葛藤がにじみ出ていた作品。純粋に絵を描きたいと願う無名の絵かきの人生を、津軽の情景を「冬」に始まり春夏秋と移り行く四季をリアルに見事に描いている。エピローグの「ありがとう、自分にはもったいない良き妻よ、そちらではふさわしい夫に出会えたか」の節では思わず涙腺決壊。一点残念な点は、語り手の主人公とダメ男との恋愛談。これって「この美しい小説」に必要か?と疑問を持った。最後のどんでん返しの話と絡めたかったのかとも感じたが。ちょいと惜しい四つ星★★★★2021/05/28
hasami1025
7
青森の画家・常田健がモデルの小説。こんな画家が日本にいたとは知りませんでした。彼を見つけ、彼の絵を世に出そうと奔走する香魚子を中心に物語が進みますが、もっと違う感じで物語を作って欲しかった。50にもなってもこんなに愚かに不倫の道を突き進めるもの?恋する女ってこんなに御馬鹿?と驚きます。人は年を重ねても大人になれないものなのか?人生きれいごとでない、というのには共感しますが、香魚子には共感できませんでした。2017/03/29
豆ふうせん
4
津軽で、誰にも一枚も売ることなく、自分が描くためだけに黙々と絵筆を動かし続けた画家・ケン。物語が進むにつれて、彼が秘めてきた過去が明かされていく。戦火の下、身も心も削られていくような貧困と重労働。いわれのない投獄。描くことへのおそるべき執着…活字をひろっては彼の人生の物語を追い続けるうちに、引き込まれ、さいごまで見届けなくては気がすまなくなった。彼を「オヤブン」と呼び慕った画家仲間のフク、彼女に救いの手をさしのべた作家・宮本百合子の人物造形にも惹かれた。2018/10/27
YH
3
フクとケンの関係は精神的な関係に留まって欲しかった。香魚子とトシの間が生々し過ぎるから、その対比でそうあって欲しかった。最終章辺りまでケンがまるで仙人かのようにイメージしてたから、フクとの書簡のやり取りに見える肉体を伴うケンの姿に最後になって戸惑う。2017/12/10
モンティ
2
たまたま図書館にて見つけた本。もともと玉岡さんの作品はいくつか読んでいて何となく私の波長に合う事はわかっているので、”ひこばえ”に惹かれて読み始めるが、実在の人物(常田健)が軸にあって、その人にかかわった人々の描写も織り交ぜての作品。私も知らなかった画家の話だけあって、遠く青森まで行って観たい衝動に駆られる。確かに力強い絵である。コロナ禍で、美術館にもなかなか足を運べなくなってきているけれど、少しずつ活動を開始しても大丈夫かな?2023/01/20