内容説明
賢治と莞爾。イーハトーブと満洲国。いったい、この二人は何者なのか。共通点はある。それは、二人がともに法華経の熱心な信者であり、当時、一世を風靡した在家の法華経教団である国柱会の会員だったことである。しかも、この二人は、入会時期もほぼ同時期なのである。宗教的理想を根底にして、社会変革を夢見たユートピア思想家。このような観点から、宮沢賢治と石原莞爾の業績とその位置づけを整理。そして、その結果見えてくるものを、この混迷の時代に逆照射する。
目次
第1章 法華文学こそわが使命―宮沢賢治
第2章 理想郷としての満洲建国―石原莞爾
第3章 大河の源流―「法華経」の行者日蓮
第4章 賢治における光と影
第5章 ユートピアを夢見て
第6章 現代を映す鏡
著者等紹介
宮下隆二[ミヤシタリュウジ]
1965年、大阪生まれ。筑波大学比較文化学類中途退学。以降、塾講師のかたわら、独学で宗教、思想を学び、詩作に従事する。2005年、第2回「涙骨賞」優秀賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さっと
4
童話作家・宮沢賢治と、軍人・石原莞爾。二人の共通項というと「東北出身」ぐらいかと思っていたが、いやいや、もっとも大きかったのは日蓮宗という存在。二人の生き方の根底をつらぬくものだから、それを抜きにしては語れない。多少の知識はあったつもりが、賢治が坊ちゃんだったとは知らなんだ。困窮した農村を救うべく奔走した彼が、たびたび父から金銭援助を受けていたとは、「坊ちゃんの酔狂」と嗤うものがあっても当然、賢治にとっては大いなる心のかせをもって生きていたとは興味深い。石原莞爾は、うわさどおりの怪物。そこしれねぇ。2013/04/13
さえきかずひこ
4
日蓮を信奉し狂気にも似た執念で理想郷建設を追い求めたふたりの同時代人として、宮沢賢治と石原莞爾を比較し、昭和初期から先の大戦までの時代の一端を浮き彫りにする好著。現代に結び付けようとする第6章後半が陳腐で残念。読み応えはある。2009/06/13
鮎川玲治
2
宮沢賢治と石原莞爾、全く対極に位置するかのように見えるこの二人の同時代人を日蓮宗という接点で結びつけた、その共通点や相違点などを比較して論じた良著。2012/04/08
0類:総記
1
頁を進めるごとに思想的な切り込みの弱さが目立っていったが、少なくともこの二人を同列に論じる試み自体のインパクトは大きく、考えさせられた。 人は時代のパラダイムと置かれた立場の中で、自己実現を図る。その結果を一度括弧に入れて人間性の根幹に迫ろうと試みるとき、血の通った人間性がかいま見れる。その人の為した功罪は消えずとも、巨人であったという事実、人間としての大きさもまた変わらない。そうしたものに迫れる読書体験だった。2023/05/13
こばんざめ
1
この2人が並列されて論じられているのを見たことがなかったので、これがどういう話なのかわからず読み始めたわけだが、背景に法華経・国柱会・田中智学をベースに進む話を読んで、二人の共通点を理解した。理解はしたものの。 すなわち、法華経が遍く世界中に広まることによって理想社会が完成するとの日蓮の思想は、そりゃ迫害されるに決まってるだろ、とすら思う。つまりその思想は、異質の他者の全否定なのである。そんな社会が理想郷なわけがない。冗談ではないぞ、とすら思うのである。2021/01/01