内容説明
真実の愛を求めて。みなし児の少女シルバーは、盲目の灯台守ピューに引きとられ、夜ごと、百年前に生きた牧師ダークの「数奇な人生の物語」に耳を傾ける。シルバーとダーク、やがて二つの「魂の遍歴の物語」が交差していく…。待望の傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
78
美しく素敵な時間だった。続きものの話を聞かせてくれる相手に「お話して」とせがむのは、終わらせないで、と同義なんだなと思う。いつまでも無限に続く世界を求めている。終わりがない物語は死でさえ結末とはならず、いくらでも意味を変えることができてしまう。その中にあってさえ変わらないもの、『トリスタンとイゾルデ』、「あなたとわたしの他には何ひとつ存在しない」美しく完璧だが刹那的であることを運命づけられている物語。語り語られることで自身も物語に取り込まれてしまうのだろうか、はっきりしていたはずの境界線は次第にかすれて。2023/05/08
帽子を編みます
70
これは愛を語る話、お話しして、3つの単語(I love you)からなる話を。最初に読んだときは、ただ面白く奇想天外な筋を追い、愛の不思議を、その燃える思いを傍観者として眺め、再読の今は、過ぎた思い、温かな燠、真っ白な灰、いま尚燃える思い、いろいろな愛を思う。スティーヴンソン、トリスタンとイゾルデ、ここでも出会う。この本を読む機会を与えてくれたこの場に感謝を。冷静な傍観者の視点だけでは得られないものがあることに気付き、心を動かし、愛を与えること、自ら動くことで得られる喜び。読む価値のあるお話です。2021/10/07
ケロリーヌ@ベルばら同盟
60
太陽と月、光と闇、シルバーとダーク。月にロケットが飛ぶ時代と、19世紀が、入れ子細工のように時空を超え、海上の星座、灯台の灯火を連ねた首飾りのように螺旋を描き、盲目の灯台守ピューが語る、おしまいのない物語となる。自然淘汰には存在しない愛という要素。トリスタンとイゾルデ。水底に鎮むジキルとハイド。化石に書かれた記録。スコットランド北西端"怒りの岬"ケープ・ラス。カモメと夢だけが塒とする断崖には、数多の物語が宿る。ケープ・ラスには、いつでもピューがいる。銀と海賊で作られた娘、シルバーが新しい美しい物語を紡ぐ。2021/02/05
KAZOO
57
ここの読み友さんのレビューで興味をもって図書館から借りてきて読みました。大人向きというよりも若干若い人向きの小説ではないかという気がしました。純文学というよりも軽めのエンターテイメント的な要素があり話が様々な方面に進むので飽きさせない工夫がされているように感じました。2015/01/21
マリリン
55
目を閉じると夜の波の音が聞こえる。海の香りが漂う。ケープ・ラスは、灯台はピューの魂が宿るかのような、時間を超越して交錯する物語。目に見えないものや、言葉にできないお話をもっと...。シルバーにも二人のダークにも。感じた事はうまく言葉にならないけど、ただただ波間を漂うような心地よさがあるお話の余韻から、覚めたくない。感応する世界から。紡がれ結ばれた魂の声が、遠い過去から聞こえてくるかのような波の音を聴いていたい。 光と闇が交錯する場所で。 ”ただ結びつけよ”...作中より。2021/09/05