内容説明
レオナルド・ダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』を分析して名画とは何かを改めて考えさせ、ベラスケスの色調の移り変わりの正確さを音楽における絶対音感に譬え、そして画面の表面を奥行きよりもいっそう重要と考えたエル・グレコのうちに近代絵画の先駆者をみる…。より深い美術体験へと読者を誘う名エッセイ16編。
目次
ティツィアーノ『キリストの埋葬』
ベラスケス『宮廷の侍女たち』
ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデン『十字架降下』
ドラクロワ『十字軍のコンスタンティノープル入城』
ラファエッロ『漁獲の奇跡』
ヴァトー『ジェルサンの看板』
エル・グレコ『聖衣剥奪』
ヤン・フェルメール『アトリエの画家』
コンスタブル『跳ね上がる馬の習作』
ゴヤ『一八〇八年五月三日』
スーラ『アニエールの水浴』
ターナー『海の吹雪』
レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』
クールベ『画家のアトリエ』
ボッティチェッリ『神秘の降誕』
レンブラント『自画像』
著者等紹介
クラーク,ケネス[クラーク,ケネス][Clark,Kenneth]
1903‐83。国際的に著名な美術史家、評論家。ロンドンのナショナル・ギャラリー館長、オクスフォード大学教授などを歴任
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感想・レビュー
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penguin-blue
35
懐かしい一般教養の美術の授業を受けたような気分…良い意味で。とりあげられている絵画はそれぞれの画家の代表作で教科書に載るような名作。一部を除き、登場人物がたくさんいる作品が多く、漫然と見ればただの背景だった人々が、ひとりずつの佇まいやその背景にフォーカスをあてることで群像劇としていきいきとした色合いを見せる。ヨーロッパ絵画を見る前や後に、まっとうに美術の知識や見方を学ぶためにはなかなかの好著。最終章のレンブラントの自画像ばかりのピックアップも興味深い。2019/11/17
白義
8
絵画から最初に受ける美的感嘆、その鮮烈さを更に深めるために引かれる博識なエピソード、確かな鑑定眼と鮮やかな文章がページの端から端まで隙なく詰まっている。模範的な美術エッセイ。フェルメールの「アトリエの画家」で後ろを向いているフェルメールの分身らしきあの画家の正面の姿を過去の絵から特定し、驚異的なリアリズムを感じさせるゴヤの「5月3日」が事件から六年後に情報と構想によって再構成され描かれた想像力の結晶でありと指摘する、見事な筆さばきに惚れ惚れする2013/02/16
bibliophage
7
有名な画家の作品を1つ取り上げて、その作品の見かたを筆者なりに述べていくという形をとった本。印象に残ったのは、ベラスケス:謙虚な性格、画面から画家の人間的感情を読み取ることができない、人間の性格に対する無気味なまでの洞察、ドラクロワ:色を劇的表現の手段として利用した、ヴァトー(看板):純粋な喜び!、デッサンを絵画作品より高く評価していた、クールベ(画家のアトリエ):左手にバルザックの世界があり、右手にフローベールの世界がある。そのことはら同時代の人々のなかで自分だけが絵画芸術を当時の社会と結びつけることが2016/09/19
duchamp2008
3
学術的な知見が僕らの鑑賞を助けるのだとすれば、それは作品と交わしたあの親密な時間へと再び引き合わせるまでの眼と精神へのインターバルとしてではないか。また、画家の遍歴や時代背景、技法、こうした知見が役に立つとしたら、それはまだ探り当てることのできない作品と自分との関係を、まだ目覚めたくはない夢の続きを願うように画面へと繋ぎ止めてくれるからではないか。僕がクラーク卿から教わったのはこうしたものでした。それは自分がまだ離れたくはない作品と自らを引き止めるくびきとして、僕の心に根ざした言葉になったように思います。2012/05/27
のの
2
新聞のコラムだったもの。1作品選んで解説と徒然語り。作品と作者は皆有名なものばかりで、書き方もゆるめで一般書として読める。 浅学なのでブレイクの性格は知らず、ちょっとびっくりした。グレコのエピソードを読んで、ミメーシス・模倣・コピー・再現概念と絵画芸術ってなんだろうなぁと思った。2010/08/19