感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
77
シカゴを愛するダイベックが青春時代の想いを描いた、ショートショートからオムニバス短篇小説まで14篇。訳者の柴田元幸さんが「これまで訳した中で最高の1冊」と断言しているとおり、魅力的な文章がいっぱい詰まっている。なかでも、『夜鷹』の‷時間つぶし‴に出てくるシカゴ美術館の絵画めぐりの一節がいい。「美術館はまるで光の洪水だった。天窓から降り注ぐ光や、絵画を照らすスポットライトだけではない。秋になると樫や楓の木が燃えるような色を内から放つみたいに、絵画自体も内部から光を発散しているように見えた」で始まる、ゴッホの2016/02/22
マリカ
44
シカゴを訪れたのはもうずいぶん前のことだ。この短編集を読んだら、私の記憶の中のシカゴの街角の静止画像が息を吹き返した。電車が近づく音が遠くに聞こえ始め、錆付いた鉄橋で支えられた高架下の道を買い物帰りの婦人が歩いていて、すれ違うように少年たちが駆けていく。その脇をポンコツ車がクラクションを鳴らしながら走り去る。そんな光景が短編とともに1つ1つ再生されると、私自身が子ども時代をシカゴで過ごしたような気がしてくる。シカゴというほとんど知らない街を舞台にしているにもかかわらず、懐かしさを駆り立てる短編集だった。2012/09/02
nobi
35
随分前の映画「フラッシュダンス」の1シーンと印象が重なる。多分霧の早朝、ジェニファー・ビールスがドロップハンドルの自転車で、製鉄所近くの赤茶けた通りを向かってくる映像。散文的なダウンタウンの光景も詩的に見える、という驚き。その映像のように、ダイベックは言葉でシカゴの「荒廃地域」を蘇らせる。訳者絶賛の一冊への期待に反して、何かしら同調できない部分も多かったけれど、時にほろっと来る。仲間に叫ぶ姿に。ショパンの聞こえなくなった沈黙に。「無常感」の中、時折天上から啓示的な言葉が舞い降りてくるようなところがあった。2016/04/02
jahmatsu
32
今の季節の夜中に丁度いい具合の短編集。ゆっくり時間が流れてく感じ、いちいち細かいフレーズが刺さりますな。訳がうまいんだろうな、柴田氏に感謝。「夜鷹」がお気に。2018/12/04
踊る猫
31
もちろんこの本を単独で読んでも面白い。しかし、翻訳者の柴田元幸のエッセイを読んでいると美味しさは二倍になる。都市の子どもたちをめぐるノスタルジー。それは洗練されているが同時に幼稚で野暮ったく(と書くと矛盾?)、ささくれ立っていて生々しい。少年の目から見た女の子、野球、ロックンロール、そして都市はこんなにもフレッシュだ。柴田元幸自身都会育ちの身なので、この本を訳しながら自分自身のノスタルジーを重ね合わせたのではないか。そんなパーソナルな作業の産物として受け取ると一段と美味しさが際立って来る、そう思われたのだ2019/08/20