内容説明
主人公のコスタは、リオとブダペストで二重生活を送るゴーストライター。手がけた他人の自伝がベストセラーになり、混乱がますます加速する…。僕はいったい誰なのか…。軽快なリズムで時空間を彷徨い、夢と現を行き交う…。やがて漂着する驚愕のラストとは?ブラジル音楽の巨匠が奏でる言葉の魔術。ブラジル文壇の権威ある“ジャブチ文学賞”“パッソ・フンド文学賞”ダブル受賞。
著者等紹介
ブアルキ,シコ[ブアルキ,シコ][Buarque,Chico]
1944年、リオデジャネイロ生まれ。20世紀後半のブラジル文化を代表する音楽家、詩人、劇作家、俳優
武田千香[タケダチカ]
東京外国語大学助教授(ポルトガル語・ブラジル文学専攻)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
101
独創的なブラジルの小説。作者はブラジルで有名なシンガーソングライターとのこと。文章の軽快なリズムはそこから来るのかもしれない。主人公はゴーストライターで仕事で足を運んだハンガリーに魅せられるようになる。ハンガリー語を学び、ハンガリー女性の恋人もできて、自国のブラジルよりも居心地の良さを感じたりする。ブラジルとハンガリーを往復するうちに、自分のアイデンティティーが揺らいでくるのが面白い。結末には驚いた。作者は主人公の行動を批判しているのか、肯定しているのかはっきりしない。この曖昧さも作品の魅力だろう。2018/09/08
かもめ通信
17
作者であるシコ・ブアルキはブラジルの著名なシンガーソングライターであるという。そう聞けばなるほどと思うほどに物語の導入部は音楽的だ。語感に魅せられてハンガリーに惹きつけられたゴーストライターを生業とする主人公はやがて、リオとブダペストの二重生活をおくるようになる。物語にはいくつもの対比が織り込まれていて、まるで合わせ鏡であるかのように向き合っているかとおもえば、ときに重なり合って、次第に境界が曖昧になり、いつしかあれこれが混ざり合う。考えれば考えるほど、漂えば漂うほどに面白い。そんな物語。 2015/07/19
gu
3
四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』を連想した。2022/09/11
N.river
3
それは誰のものなのか。書き手を生みの親とするなら、作品はその子供だろう。だが同時に子供は親と異なる一個人でしかない。所有権は親にあるやもしれないが、しかし子供は子供自身のもの、作品は作品でしかない時、産み出した親の存在とは。作品に眠る本質はおそらく、現実を超えるのだろう。2016/09/06