出版社内容情報
『桃太郎 海の神兵』から『この世界の片隅に』まで、アニメに登場する様々な戦争。その系譜をたどり、社会との関係を問い直す。
内容説明
『桃太郎 海の神兵』から『この世界の片隅に』まで、アニメの隣にはいつも戦争の姿があった。ときに戦意高揚のためのプロパガンダとして、ときにロボットをヒロイックに活躍させる舞台として、アニメはいかに戦争を描いてきたのかその系譜をたどり、両者の関係を改めて問い直す。
目次
1 『ゲゲゲの鬼太郎』という“定点”
2 『桃太郎 海の神兵』の同時代性と断絶
3 少国民世代、「戦争」を描く
4 『宇宙戦艦ヤマト』の抱えた分裂
5 誰も傷つかない「戦争ごっこ」の始まり
6 「ポスト戦後」時代の戦争アニメ
7 ポスト戦後の中の「過去の戦争」と「未来の戦争」
8 『紅の豚』の苦悩、『パトレイバー2』の現実
9 冷戦後の「アニメと戦争」を構成する三要素
10 二一世紀にアジア・太平洋戦争を語ること
著者等紹介
藤津亮太[フジツリョウタ]
アニメ評論家。1968年生まれ。東京工芸大学芸術学部アニメーション学科非常勤講師。朝日カルチャーセンターでの講義なども手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
93
戦争を経験しなかった戦後生まれの日本人は、映画やアニメを通じて戦争を知った。特に少年期に見て大きな影響を受けた戦争アニメにおける戦いの描写や思想や表現が、制作者の年代により変わっていく姿を跡付けていくプロセスは説得力がある。そして現在アニメ制作の第一線にいるのは『ヤマト』から『ガンダム』を経て『マクロス』に宮崎アニメまでを見続けて世代だ。学校で歴史を学ぶ前に冷戦やテロや自衛隊のあり方をアニメで知った世代が、今後どんなアニメを創造するのか。恐怖政治を知らぬ日本人が戦争をどう見るかを左右する岐路かもしれない。2021/08/08
keroppi
85
カバーを彩る絵は、会田誠の「ザク(戦争画RETURNS番外編)」だ。戦争のサブカルチャー化を象徴するかのような絵だ。アニメでは数多くの戦争が描かれてきた。それは、作者たちの戦争感を投影するものであったし、見るものの戦争への意識を測るものでもあった。私自身、「宇宙戦艦ヤマト」初放送時は、戦争の嫌な部分を感じ好きになれなかったし、「火垂るの墓」には戦争の悲しみを感じた。時代によって、捕まえ方は変わっていくのであろうが、アニメという手法だからこそ、戦争という不条理と悲しみを映像に定着できるのかもしれない。2021/08/13
へくとぱすかる
77
人はなぜ戦争をするのか、戦う作品を作るのか。戦前からの戦争アニメを元に、作る側、見る側の時代による意識の変化を考察していく。ほとんどが戦後の歴史となるが、戦争を体験した世代の製作者にも、微妙な年齢差と感覚のちがいが存在した。反戦を主張するのに、文学もそうだが、著者のいう「かわいそう」を押し出した作品が多数生まれ、読まれ、消費されてきたが、しかし被害者と加害者というふたつの属性の関係は複雑である。戦争を賛美するのはごめんだが、ふたつの立場をどう作品として描くかを今後の作品は追求していかねばならないだろう。2021/09/06
空猫
47
「戦争アニメ」と言うと何を思い浮かべるだろうか。これはアニメにおける戦争を~'45「状況」~'65「体験」~'90「証言」、以降を「記憶」と区分し考察した非常に読みごたえのある一冊だった。ゲゲゲの鬼太郎の『妖花』は時代によって変化した。「ガンダム」は「未来&空想」という過去の大戦を引きずらない点で斬新だった。「マクロス」の戦争とアイドルの共存。「パトレイバー」からの「テロ」等見えない敵との戦争、そして「萌えミリ」→ 2021/07/19
kei-zu
32
「ゲゲゲの鬼太郎」は、ほぼ10年ごとにアニメ化される。太平洋戦争を題材にした「妖花」のエピソードは、時代ごとの「定点観測」という視点がおもしろい。当事者との関係が離れていく一方で、物語に共感の呼ぶための段取りも変わっていく。 宇宙戦艦ヤマトが大きなターニングポイントとなった戦争という題材は、ガンダムを経てマクロスへ。そして、題材や取り上げ方の方向性も広がっていく。 本書の最後は、「この世界の片隅に」のある台詞が原作から変更された意味について説明する。その意味は、深い。2021/04/25