内容説明
寛政四年夏。日本橋から二里西にある戸塚村の外村甚平は、近くの尾張徳川家・戸山下屋敷に御用聞きとして出入りする大百姓。屋敷は敷地面積十三万坪のうちほとんどが庭園。荒れているが、巨大な池に「箱根山」と呼ばれる山、神社仏閣まである。半年後に将軍・徳川家斉が御成になり、この庭を通り抜けるため、屋敷奉行は甚平に、将軍を喜ばせる仕掛けを考えてくれと持ちかける。不思議な滝、怪しい洞窟、お化け屋敷のような町屋。村人を束ね、悪戦苦闘の末、飄逸味あるアトラクションが次々とできあがり、さて、将軍の御成当日―第7回日経小説大賞受賞。
著者等紹介
西山ガラシャ[ニシヤマガラシャ]
1965年名古屋市生まれ。南山短期大学卒業。コンベンション関係の会社で、学会の運営サポートに従事。2015年、『公方様のお通り抜け』で第7回日経小説大賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なゆ
70
〝江戸時代のテーマパーク〟という言葉にそそられて。尾張徳川家下屋敷戸山荘の庭園は約十三万坪というだだっ広さ。突然、それも百年ぶりに公方様(将軍家斉)が御成りになるということで、荒れ果てた庭園を美しく整えるだけでなく、公方様を驚かせ楽しんでもらおうとあらゆる仕掛けを考えるのだが。尾張の殿様じきじきの入念なリハーサルはうまくいくのか、そして本番は…。屋敷奉行の弾蔵の心労は気の毒なほどだったが、最後のページの記述には笑ってしまった。仕事を請け負った大百姓の甚平はウホウホだったろうが、弾蔵は大丈夫だったろうか。2016/06/11
いたろう
45
尾張徳川家・江戸下屋敷「戸山荘」、将軍家斉公の御成があるということで、急遽再整備された広大な山野は、庭園というより仕掛けに富んだ大テーマパーク。この戸山荘の整備の様子のすったもんだが、軽妙で楽しい。これが全くの作り話ではなく、戸山荘への将軍御成は史実であり、水量を変えられる龍門の滝も、小田原宿の再現も本当にあったものだというから驚く。戸山公園の箱根山は、その跡であったのか。しかも話はそこにとどまらず、亡霊まで飛び出すも、それまで何だかこのテーマパークのアトラクションのひとつのようで、興趣がつきない。2016/06/13
sofia
38
江戸中期の尾張徳川家・戸山下屋敷にあった名庭を作った男たちの物語。公方様は「たまたま」来るものなのだな。飾り道具が名古屋から届いて元気になる弾蔵の気持ちはサラリーマン。2022/04/14
onasu
27
江戸も中葉の寛政期、江戸近郊の戸塚村の大百姓外村甚平は商人も顔負けの算盤勘定で、尾張徳川家下屋敷の庭仕事を請け負い、近隣から人を集めては賃仕事に勤しませていた。 そんな折、若き公方様家斉公が来春の鷹狩りの帰路、「偶然に」その下屋敷に御成になることになった。そこで甚平は工夫を凝らした壮大な(13万坪)庭造りに邁進することになる。 三度の飯より銭勘定が好きという甚平が、無論それを忘れはしないが、公方様を楽しませたい一心で(欲も垣間見せ)取り組む姿がいい。 図書館で、またおもしろそうな作者を発見しました。2018/09/05
まるぷー
27
尾張徳川家、宗睦の戸山下屋敷に100年ぶりに公方様が御成になる。鷹狩の帰りに偶然お通り抜けされるという設定。悪までも偶然に。慌てたのは屋敷奉行弾蔵。御用聞きと出入りする大百姓甚平に庭園の大改造計画を持ち掛ける。儲け話とばかりに甚平は一大テーマパークをプロデュースする。不思議な滝、怪しい洞窟、町屋など。果たして御成は、大成功となりて公方様は大満足。弾力や甚平の気遣いにドキドキワクワク感が人間心理を見たような。これに気をよくした宗睦。殿様を今後も招くと。屋敷奉行の心中と今後の気苦労を慮ると可笑しい。 2018/03/16