内容説明
たまたまジムにまぎれこんだ男が、練習して練習して練習しなければ強くなれない、金にもならず、命すら奪われかねない過酷な世界にのめり込む。人はおもしろい試合を見てしまうと、夢中に、暑苦しくならずにはいられない。そこは世のうつろいと無縁の時がとまった世界。まばゆい光の下で突き上げられた拳は、いったい何を掴むのか。たたみかけるようにパワフルに、ボクシングそのものを描ききった傑作長篇。
著者等紹介
角田光代[カクタミツヨ]
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞を受賞。著作多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hiro
153
角田さんの初スポーツ小説だということで読んだ。文芸志望で出版社に入った空也が、まったく興味がなかったボクシングの雑誌編集部に異動となる。そこで知り合った同世代3人のボクサーの成長と挫折を身近でみて、空也はボクシングの世界に引き込まれていく。その空也をみていくうちに、ボクシングを知らないけれども、ボクシングの奥深さが感じられ、試合シーンの描写もさすがだと思った。安易に連勝を続けるボクサーが出てこないのも良かったが、特に大きな試練が主人公達を襲うわけでもなく、この長さの小説にしては起伏が小さいと思った。2013/02/14
mike
81
角田さん、本当にボクシングが好きなんだなあというのが伝わる小説だった。主人公の空也は希望していた文芸部でなくボクシング雑誌の編集部へ異動した。運動はダメ、彼女どころか友達もいない彼がそこで新人ボクサーを取材する中で何かが変わって行く。興行収入の為選手を売る為のジムの戦略。そこに乗らざるを得なかった選手を待つ悲劇。後輩に追い抜かれて自信も戦意も削り取られる者。バイトを掛け持ち過酷なトレーニングに身を削る者。ファイトシーンが多いが、これは自分の進む道に悩み模索する若者の姿を描いた青春小説となっている。2024/01/12
トラキチ
58
角田さんの新境地開拓作品と呼んでよさそうなボクシングを題材とした作品。 百田さんの『ボックス!』は未読ですが(宿題ですね)、想像するにボックス!ほど熱い作品ではないであろうと思っています。 敢えて女性読者の多い角田さんはそのあたりは想定済みですよね。 だから本作は主人公を出版社に勤務する“文科系”のオトコである空也の目を通している点がこの作品のポイントであると思います。 ひたすら一般的な読者レベルに近い視点で語ることによってボクシング自体わかりやすく語られているのです。 2012/11/13
くろにゃんこ
57
長編です。角田さんがボクシングものとは意外な感じがしますね。かつて後楽園ホールで観た試合の生々しい音を思い出しドキドキしつつ…途中からは熱が入っての一気読みでした。終盤、これはボクシングの話ではなく、出版社の編集者の話だったんだ…と気付きます。まぁ、確かに現実はそんなものかもしれないけど…ねぇ。急速に萎んでいく熱にちょっと寂しい終わり方(+_+)2013/02/10
ユザキ部長
56
ホラー映画のコスプレとビックマウス。なんでそこまでと、威嚇し悪態をつくタイガー立花。方やそつなく、コツコツ練習に明け暮れる立花望。空也が時々感じる違和感を考え、ぶつけて、自分たち自身を見つめなおす。壁は越えるほど高いが、あの音のいっさいしない場所で、その先に行きたいと願う。いつもあと少しなんだよなぁ~。2022/09/10