出版社内容情報
《内容》 まえがき オランダの生理学者EINTHOVENは,心筋の電気的興奮によって発生する電流の記録に成功し,その波形を心電図と名付けた.その後,心電計の発達と臨床医学への応用が進められ,心電図は循環器疾患の臨床を飛躍的に発展させる基礎となった.心電図の発見以来,すでに百年近い年月が経過している現在でも,最重要の診断法としての地位に微動だにしない. 心電図は,最も基本的な診断情報であり,臨床医学と関わりをもつ立場の者にとって,その判読は必須の知識であり,ごく日常的に活用できるレベルまで理解しておく必要がある.にもかかわらず,残念ながら心電図は,いまだに難しいものとして敬遠される傾向がある.現在の医療教育カリキュラムでは,心電図の教育に提供される時間は極めて少なく,心電図の実質的な理解は,卒業後の実地臨床を通じて修得していくしかない.もし仮に,臨床研究の場に循環器の専門医を欠くとしたら,心電図が充分に読みこなせないまま,臨床医としてスタートしなければならないだろう. 心電図の曲線は,きわめてシンプルな波形で構成されている.フレの大きさ(振幅),幅,フレとフレとの間隔など計量的情報と,波形の基本的変化のパターン認識により得られる情報とを含んでいる.判読に慣れさえすれば,日常の臨床で遭遇するケースは,よほど複雑な例でない限り,診断はそれほど難しくない. 心電図の教科書または解説書は,すでにおびただしい数が出版されている.それぞれ,著者の工夫のほどがうかがわれるが,どの本を選択しても,またその本を通読し得たとしても,なかなか心電図が読めるようにならないのが現実だろう. 編者は,心電図の読み方のトレーニングに語学の学習法を応用することを思いつき,本書「心電図マニュアル」の初版を出版した.すでに15年前のことである.語学の学習において,最も基本的で大切なことは,必須の単語をできる限り多く記憶し,また必要に応じて単語の意味・使い方などを確認することだろう.特に,未知の単語に遭遇した場合には,その都度何回でも繰り返して辞書をひき記憶することが,語学力のステップアップにつながることになる. 本書のねらいは,初心者(学生など)にとっては手軽な辞書的役割を果たし,すでに心電図判読に必要な基礎的知識を有するもの(研修医,実地医家)には,知識の整理,再認識に役立つ便覧,データブックとしての性格を備えた解説書である. 本書の試みは,幸いにも好評を頂戴し,4年後には改訂版を出すこともできた.改訂版でも,初版の体裁,辞書・データブックとしての特徴を堅持し,その間の心電図学の進歩に応じて内容の充実をはかり,解説や説明図もupdateなものに改変した. 最近の臨床医学の進歩は目をみはるものがあるが,診断法として定着している心電図にも新知見がどんどん加わり,本書の改訂版に盛り込んだ項目だけでは,充分に対応できないのが現状といえる.本書が,心電図を理解するためのminimum requirementを備えたマニュアルとしての役割を充分に果たすためには,大幅に内容を改める必要があると判断し,「新心電図マニュアル」の出版に踏み切ることにした. 本書を企画するにあたって心がけたことは,もともとのねらいである実用的なガイドブックとしての性格を崩さずに,しかも最先端情報をもれなく収載することである.執筆は前版にこだわらず,それぞれのテーマ毎にベストと考えられる方にお願いし,また編集メンバーも一部変わるなど,名実ともに内容が一新された. 本書には,心電図のABCから最新のテーマまで,ほぼ漏れなくとりあげたつもりである.執筆者には,可能な限り統一されたスタイルで解説をお願いし,できるだけ簡明にしかも平易な表現での記載をお願いした.図・表などを多用し,目で見る要素を重視したのも本書の特徴である.本書には,心電図を理解するために必要な項目は網羅したつもりである.実用的要素を重視してはいるが,そのレベルは決して低くない.本書1冊を手元においていただき,折にふれて手にとってご覧いただくだけで,心電図の判読に必要な知識は吸収できる筈である. 最後に,本書にご執筆いただいた各位,並びに編集・制作に絶大な協力をいただいた中外医学社荻野邦義,森本俊子両氏に,改めて心からお礼を申し上げたい.1994年11月前田如矢初版のまえがき 心電図の分野に限らず,学習法には種々の方法があるが,もっともオーソドックスな方法は,いわゆる教科書としての内容と体裁をそなえた本をまず通読することである.近年心電図に関するテキストブックは,洋の東西を問わず,多数出版されているが,1度や2度位,1冊の本を通読しても,すぐに心電図が読めるようになるものではない.また,かなりの頁数のものを1頁目からよみはじめ,最後の頁までよみこなすことは実際には大変なことである.そこで最近比較的よく出版されているのか,Q&Aやcase study方式のもので,典型的なパターンを示す実例をみることにより,学習するという体裁で書かれたものである.しかし,心電図の初心者が読み方になれていない者が後者にとりくむ場合には,ある程度の基礎的知識がないと,容易に理解できるものではない. 編者は,心電図の読み方のトレーニングに語学の学習法を応用することを思いついた.語学の学習においてもっとも基本的で大切なことは,その学習の目的(例えば日常会話,作文,文章の読解など)に応じて必須の単語を少しでも多く記憶し,その意味を充分に理解することである.1つの単語は,ただ1回その意味を教えられただけで,完全に自分の身につくことは稀である.むしろ,自分の知らない単語に遭遇した場合には,そのたびに何回でもくり返して辞典をひいて記憶することが大切である. 本書は,初心者(学生)にとっては手軽にひける辞典的役割をはたし,すでにある程度心電図判読に必要な基礎的知識のあるもの(研修医・実地医家)には,知識の整理,再認識に役立つ心電図の便覧,データブックとしての性格をそなえた解読書を目標として企画した. 心電図診断に最低必要と考えられる100項目について,波形の特徴,心電図上の鑑別,臨床との関連事項などを主体として,その内容はできるだけ簡明に記載することを執筆の基本方針とした. 各執筆者には,可能な限り統一されたスタイルの記載,新しい考え方や表現などの解説をお願いしたが,執筆者が多く,また多項目にわたるため,若干内容の重複,記述の簡略化による説明の不足,各機関の心電計や記録紙の相違による心電図の不統一などがあり,はたして充分に読者の期待にそうことができたかどうか一抹の不安がある. 本書の100項目は,はじめから1日1~2項目位ずつよんでいただいてもよく,また気のついた頁,その日にたまたま経験した症例に関係のある項目をよんでいただいてもよい.以上のプロセスを反覆することにより,一応心電図の基礎的地域を理解することができると思う.本書が,心電図判読のためのトレーニングの一助になれば幸いである.1979年2月編者 《目次》 目次基礎知識と正常心電図1.心臓の興奮伝導系 12.心電図の誘導法 43.心電図の基本波形 104.P波 125.QRS 156.ST-T波 197.U波 248.PR(PQ)間隔 269.QT間隔 3010.心電気軸 3211.移行帯 35異常心電図12.心房の異常(1)左房負荷 3713.心房の異常(2)右房負荷 4114.心房の異常(3)両房負荷 4515.心室肥大(1)左室肥大 4716.心室肥大(2)右室肥大 5117.心室肥大(3)肺性心による右室肥大 5518.両室肥大 5819.低電位差 6120.電気的交互脈 6721.心筋梗塞 7222.広汎な前壁梗塞 8223.側壁梗塞 8824.下壁梗塞 9225.非Q波心筋梗塞 9926.右室梗塞 10427.狭心症 10928.無症候性心筋虚血 11829.ST-T波変化 12530.再灌流療法による心電図変化 13131.鏡像的現象 14332.異常U波 14633.運動負荷試験 15334.その他(薬物など)による負荷試験 16335.S1S2S3パターン 17136.遺伝性QT延長症候群 17437.不整脈のみかた 18138.洞頻脈 18839.洞徐脈 19340.洞不整脈 19741.ペースメーカー移動 20242.期外収縮 20443.融合収縮 21144.心室内変行伝導 21445.心房細動 21646.心房粗動 22047.発作性上室性頻拍 22448.早期興奮症候群 23049.発作性心室頻拍 23950.Torsades de points 24451.心室細動・心室粗動 24952.洞房ブロック・洞停止 25353.房室ブロック 25854.心室捕捉 26655.補充収縮・補充調律 27156.ヒス束心電図 27957.右脚ブロック 28758.左脚ブロック 29159.ヘミブロック 29460.三枝ブロック 29861.心室内伝導障害 30462.回帰収縮 30963.副調律・副収縮 31364.Sick sinus syndrome 31665.ADAMS-STOKES症候群 32066.ペースメーカーによる心電図所見 32467.心弁膜症(1)僧帽弁膜症 33368.心弁膜症(2)僧帽弁逸脱症 33969.心弁膜症(3)大動脈弁膜症 34170.心弁膜症(4)連合弁膜症 34671.先天性心疾患(1)心房中隔欠損 35072.先天性心疾患(2)心室中隔欠損 35373.先天性心疾患(3)動脈管開存 35674.先天性心疾患(4)肺動脈狭窄 35875.先天性心疾患(5)FALLOT四徴症 36476.先天性心疾患(6)EBSTEIN奇形 36977.肥大型心筋症 37478.拡張型心筋症 38279.二次性心筋疾患 38980.心筋炎 39581.心膜炎 40182.右胸心 40883.肺性心 41284.肺塞栓 42085.電解質異常 42586.薬物による心電図変化 43587.高血圧 44488.内分泌疾患 45189.脳血管障害 46090.心臓神経症 46391.胸郭変形と心電図 46692.外科手術(適応)と心電図 47293.妊娠と心電図 48094.スポーツマンの心電図 48395.小児の心電図 48696.老人の心電図 49197.ホルター心電図 49698.体表面心臓電位図 50499.Late potential 520100.電気生理検査 527付1)心電図に関する診断基準 5362)心電図の正常値 549索引 562