出版社内容情報
《内容》 本書では赤血球がその独特な形態と機能を保ち,寿命を全うするための興味深いメカニズムがまず示されている.次に現在遺伝子レベルで研究されているヘモグロビン異常,赤血球酵素異常,赤血球膜異常などへの分子生物学的アプローチによる解説が赤血球研究の最新の世界を浮かびあがらせている.序 赤血球の主要な機能は酸素を組織へ運搬し,組織で産生される二酸化炭素を肺へ運ぶことである.この酸素の結合と運搬は血球内に濃度に含まれるヘモグロビンによりなされる. 赤血球はこの酸素-二酸化炭素の交換を効率よく行うのに都合のよい独特な,両面が中央部で窪んだ円盤状biconcave discを呈している.赤血球がその独特な形態と機能を保ち,120日間の寿命を全うするためにはヘモグロビン,赤血球膜およびエネルギー産生系相互の関係が重要であり,先ず正常赤血球の構造と機能について述べた. 赤血球異常の病因に関する研究は,1949年PAULINGらによる鎌状赤血球貧血におけるヘモグロビン分子の異常の同定より始まり,1960年代からはヘモグロビン異常を中心にアミノ酸レベルで病因が解明され,“分子病molecular disease”の概念が生まれた.その後の研究技術の進歩は目覚ましく,1980年代は分子遺伝子学的手法を用いて赤血球酵素異常,さらに最近では赤血球膜異常の病因も遺伝子レベルで明らかにされてきている. 本書ではこれら最近の知見についても述べた.今後は構造異常と機能異常の関係の解明,並びに分子異常に基いた治療法の開発が望まれる.血液学に興味をお持ちの方々に多少なりともお役に立てれば望外の喜びである.1992年6月藤井寿一 《目次》 目次I.正常赤血球の構造と機能 1 A.赤血球産生 2 B.ヘモグロビンの構造と機能 3 C.赤血球のエネルギー代謝 6 D.赤血球膜の構造と機能 12II.赤血球の異常:総論 15 A.臨床症状 16 B.検査所見および診断手順 16 C.病因解明 26 1.遺伝子発現 26 2.タンパクからの病因解明 28 3.遺伝子からの病因解明 31 D.遺伝子診断 39III.赤血球の異常:各論 43 A.ヘモグロビンの異常 44 1.異常ヘモグロビン症 44 a.鎌状赤血球貧血(HbS症) 46 b.不安定ヘモグロビン症(UHD) 54 c.溶血以外の症状を呈する異常ヘモグロビン症 55 2.サラセミア 56 a.αサラセミア 58 b.βサラセミア 60 c.δβサラセミア 61 d.遺伝性高胎児ヘモグロビン症(HPFH) 62 e.Hb Lepore症 62 B.赤血球酵素異常 63 1.グルコース-6-リン酸脱水素酵素異常症 66 2.ピルビン酸キナーゼ異常症 73 3.その他の赤血球酵素異常症 78 C.赤血球膜異常 81 1.遺伝性球状赤血球症(HS) 81 2.その他の赤血球膜異常 84 a.遺伝性楕円赤血球症(HE) 84 b.遺伝性口唇状(有口)赤血球症 85 3.発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) 86文献 89索引 99