内容説明
16歳のぼくを置いて母は逝った。母は宮沢賢治研究に生涯を捧げ、否定されている『銀河鉄道の夜』の第四次改稿版の存在を主張していた。花巻を訪れたぼくは、気がつくと昭和8年にいた。賢治が亡くなる2日前だった。たどり着いた賢治の家で、早逝したはずの妹トシとその娘「さそり」に出会うが。永遠に改稿される小説、闊歩する賢治作品の登場人物。時間と物語の枠を超える傑作。
著者等紹介
山田正紀[ヤマダマサキ]
1950年、名古屋生まれ。74年のデビュー中編「神狩り」で第6回星雲賞を、82年『最後の敵』で第3回日本SF大賞を、2002年『ミステリ・オペラ』で第55回日本推理作家協会賞を受賞。SF、ミステリ、冒険小説など多岐にわたって活躍する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そる
258
近未来で仮想現実なSFなんだけど、その仮想現実の世界が、宮沢賢治が生きていた昭和初期だからタイムリープ的にも見える複雑なSFで、さらに「カムパネルラはお前に殺された」物語の人物がリアルに殺されるってのがまたミステリー。ややこしいけど引き込まれて一気読み。史実にも基づいてて「銀河鉄道の夜」の第三次稿と第四次稿の違いがよくわかった。宮沢賢治が少しでも好きなら楽しめると思うお話です。「「(略)だから、母さん、みんなの幸のために自分が犠牲になってもいい、なんて思わないで欲しい。そんなの間違ってるよ。(略)」」2023/04/17
がらくたどん
70
あなたの読んだ『銀河鉄道の夜』には「セロのような声」で「善き道」へと導いてくれるブルカニロ博士はいましたか?賢治は『銀河鉄道の夜』を何度か書き直している。その改稿を追っていた母を亡くした16歳の少年が迷い込む「もうひとつの」宮沢賢治とその作品の世界。ファンタジー?あれあれタイムリープ?!いやいや、読み進めるほどに姿を顕在させたのは種も仕掛けも整った思考統制管理社会を描いた近未来SFの世界だった。「物語」が醸す甘美な共感を特定のイデオローグを包んで飲ませる口当たりの良い糖衣に使う事のグロテスク。面白かった♪2023/08/08
佐島楓
59
久々のSF。著者の意図は中盤以降にならないとわからない。そこまではてっきり本格ミステリかと思っていた。銀河鉄道の夜を数回ひっくり返してさらにねじるような力を加えているので、わりとこの作品が好きな私には全面的に受け入れられなかった。2019/04/03
ポップ
37
『銀河鉄道の夜』が第3次稿までならどうなるか。本書は1つの可能性を示した。主人公は座敷わらしのように出没した先でジョバンニと呼ばれる。彼もいるはずだが、不穏な言葉が聞こえた。カムパネルラは殺された、と。宮沢家を出入りするさそり。彼女は何者なのか。探偵を名乗る又三郎は敵か味方か。中盤まで大事なことは何も明かされない。第4次稿の存在、すなわち改稿は無きにしも非ず。又三郎とカムパネルラの正体はともかく、エピローグは如何ともしがたい。宮沢賢治作品の解釈は計り知れない。自明ではないSF小説として読むべし。2019/07/07
小夜風
32
【所蔵】初読み作家さん。「カムパネルラ」というタイトルから判る通り、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にした作品で、しかもSFとのことでとても気になって手に取りました。人生で何度も繰り返し読む本が何冊かありますが、私にとって「銀河鉄道の夜」もそんな一冊です。長野まゆみさんの本で改稿される前の作品があることを知り、でも今日までその作品を読む機会はなかったので、こんな話だったのかと知れたことは良かったです。賢治の作品が愛国主義の思想に合っていたなんて、考えたこともなかったので驚きました。なかなか面白かったです。2019/05/04