内容説明
どこからともなく供給される麻薬、物質Dがアメリカ中に蔓延していた。覆面麻薬捜査官アークターは、捜査のため自らも物質Dを服用、捜査官仲間にも知らさずに中毒者のグループに潜入し、彼らと日々を共にしていた。だがある日、彼は上司から命じられる。盗視聴機を仕掛け、アークターという名のヤク中を―彼自身を監視せよと。彼はその命令に従うが…。ディック後期の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
17
サンリオ文庫で読んだのだが翻訳が違っていたような。そういう影響は些細なことなんだが、あとがきが「私」から「ぼく」に変わることで当時の客観的なものが主観的になったような。あとがきは泣ける。2026/03/26
マッピー
14
うーん、最近とみにこの手の現実と妄想の境界があやふやで、死と暴力が隣り合わせのような作品が苦手だ。いろいろと忙しかったせいか、読書の体力が落ちてきているのか、自分の趣味嗜好にこだわりが強くなったのかはわからないが、苦行の読書だった。『時計仕掛けのオレンジ』のような世界で、そこまでの鋭さもなく、覆面麻薬捜査官である主人公の正体がばれようがどうしようが、どちらにしても自業自得ではないかと思えばもう、物語の先なんてどうでもいいような気になってしまう。なんか、ごめんなさい。2023/10/21
しまうま
13
退屈な時間が全くなかったといえば嘘になるけど(むしろ退屈な時間のほうが多かったのかもしれない、それは僕があまり真面目じゃなかったからだと思う)、話が淡々と進む裏で何かが動いている感覚は、とても奇妙でスリリングな時間だった。どこかから供給される物質Dを自ら服用する覆面麻薬捜査官のボブ・アークターが、自分の監視を上司から命じられるというあらすじだけ読めば、体裁の良いSFを楽しめるかとも思ったけど、話はそんな単純なものでもなかった。時間はかかったけど、読めてよかった。2019/08/17
白義
13
ヴァリスと物語としては似た構造を持ち、ヴァリス三部作以前のプレ・ヴァリスとして捉えることも出来ると言われる傑作だが、しかしヴァリスや他のディック作品のような怪しい神学への逃避、超越への飛躍はここにはない。SF要素はあれど徹頭徹尾現実に立脚し、ドラッグを楽しむ哀しき人々とその日々のツケが回ってきて人間がぶっ壊れる様がありありと優しき同情を込めて描かれている。その現実を甘受させるのは宇宙の真実などではなく、たまに飛び出すラリったユーモアくらいのもの。それゆえにこの小説は他のディック作品とは違う特異な位置にある2017/12/14
本棚葬
12
「なんてきれいでかわいい青い花」。毎年春がきてオオイヌノフグリを見るたびに、この小説を思いだす。道路で楽しく遊ぶ子供たちを見守る、星の瞳。オオイヌノフグリと、本書に出てくるのとはまた別の「物質D」が好きだった、同志・導師の追悼のために。2025/12/30
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