感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
37
せき・イラスト・グループの装丁版で読む。雨も降らず、山火事が頻発し、枯渇していく世界。海水を蒸発させて水を得つつも、それは水の更なる喪失になっていた。繋がりを失い、乾燥地帯を彷徨い、かつての地位に固執して自滅する大人たちに対し、子供達が生き延びていく様はホッとする。そしてランサムが倒れた後に起きた事実が「自然」という人間には理解できないものを象徴していると思う。2016/10/19
ニミッツクラス
27
92年(平成4年)の税抜466円の新装10版(初版70年)。米国版64年の、のちに“破滅三部作”と称される一見ディザスター物の一冊。66年に最後の「結晶世界」が出た。本書は40年ぶりの再読で、こんな話だったのか!と驚く。邦題は原題直訳だけど、シービュー号のような世界が燃え上がる話ではない。本書は3部構成で、主人公ランサム医師の、ヴァーミリオン・サンズを泥臭くした様な万事成行きのサバイバル譚で、精神世界の掘り下げは「結晶世界」で開花。海水が蒸発しない事による旱魃の理屈は49頁辺りから説明がある。★★★★☆☆2020/04/27
roughfractus02
13
生存の危機には、因果関係より相関関係が重視される。分子膜が海面を覆って自然環境の水の循環がストップした世界では、その原因を探ることより、ライオンの行動に水の在り処を察知する推論が幅を利かせる。海面が後退して塩と砂に覆われた地表では、人々の集団は都市から街へ、村から仲間へ、そして個々人へと分散して地表と砂や塩の粒に引き寄せられるかのようだ。白痴の老婆が神聖さを帯びてくるのは、海面の後退と人々の分散が、理性の後退と相関して読者に見えてくるからだろう。わずかな水を争い、砂漠に向かう彼らには理性に従う理由はない。2020/10/30
ボーダレス
13
雨が降らなくなった世界を舞台にした終末小説。飲み水が枯渇しうる災厄後の世界を所与の前提として、その中で生きていく人々の陰鬱な群像を描いている。砂世界同様に乾ききった人間関係は水を求め、妬み争い混沌とした心理を退廃的風景を含め、思弁的に見事に描いているため、面白みに欠けるが読み応えはあった。2019/03/24
白義
10
海が界面に覆われ雨が大地に降らなくなった、乾きゆく世界での人々の崩壊が象徴的に描かれていく。乾燥とともに人の心もあたかも蒸発していくかのように狂気の荒野へと投げ出され、自然風景がある種の精神そのもののように世界に立ち現れていく。筋道立ったストーリーや説明を省き絵画的な場面の印象だけで繋ぎながらその一つ一つは克明で、それが謎めいた人々の心理と写し重ねられるようになって超現実的な世界を展開している。水が失われるほどに人々の紐帯がほどけていき、また求めるほどに衝突や崩壊が始まるうだるような熱気に引き込まれる名作2017/07/04