出版社内容情報
1961年7月2日、神奈川県の山林から女性の刺殺体が発見される。被害者は地元で飲食店を経営していた若い女性。翌日、警察は自動車工場で働く19歳の少年を殺人及び死体遺棄の容疑で逮捕する。――最初はどこにでもある、ありふれた殺人のように思われた。しかし、公判が進むにつれて、意外な事実が明らかになっていく。果たして、人々は唯一の真実に到達できるのか? 戦後日本文学の重鎮が圧倒的な筆致で描破した不朽の裁判小説。第31回日本推理作家協会賞に輝く名作が、最終稿を元に校訂を施した決定版にて甦る。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
185
「人を殺した罪は消えやしない」懲役2年以上4年以下の刑が確定した被告の気持ちに「罪に苦しむ人に、言うべき言葉を持っていないのだよ。そっとしておくしかない。自分で解決してもらうしかない。」と言う弁護士。結果一人の命を殺めた事件の判決が出るまでの様子が実に細やかに描かれている。初版は1977年だ。宮部作家の『事の大小は報道の大小に拘らない』の言葉も好い。検察、弁護士双方の地を這うような捜査や背景を知るに、自分も関係者になった気持ちになる。双方の駆け引きも裁判をリアルに感じて流石は大岡昇平って感じにさせられた。2018/03/08
NAO
86
あらかじめ自分たちで勝手に犯人像を作り上げ、その犯人像に沿って筋書き通りの捜査をする検察は、そのためには自白の強要も辞さない。だが、殺人を犯したことには間違いなくとも、その動機や経緯は、果たして検察が考えているような単純なものなのか。犯人側にも、もっと複雑な理由があるのではないか。となると、いったい、裁判では何が真実として扱われるのか、裁判では本当の真実に到達することができるのかということが問題となってくる。ただの推理小説ではないところが、さすが大岡昇平。2019/09/27
アッシュ姉
69
本扉の宮部みゆきさんの書評にワクワクしながら読み始めた。不朽の裁判小説といわれるだけあって、一つの事件でも担当する弁護人、検察官、裁判官によって大きく判決が変わるのではないかと素人にも想像がつくほど仔細に書かれている。文字の小ささと文体に苦戦しつつも読み応えのある一冊だった。好きなジャンルにリーガル小説を入れていたけど、エンタメリーガル小説に訂正せねばと思ったのが正直な読後感。2024/07/12
shizuka
65
ある町で起こった殺人事件。犯人逮捕後裁判になるところから物語は始まる。詳細、綿密に書かれている裁判の様子。その合間合間で事件の概要、当事者たちの人と也、事件に至った経緯が記される。戦前、戦後の裁判官や検察官、弁護士の相違なども丁寧に書かれており大変興味深い。争点は殺意及び計画性があるかどうか。犯人は少年。ベテラン弁護士と検察官の攻防、一歩押され、一歩押し論告まで気が抜けない。少年が犯人であることに変わりないが、他の真実を徐々に明らかにしてゆく弁護士の手腕が見事。判決後の少年の心情の揺らぎにまた読者は唸る。2017/12/06
ミホ
59
文庫なのに良いお値段というのが納得の小説。凄かった。気持ち的には私的今年の上位。これは1つの事件がどう結末づけるかまでを書いた裁判小説なのですが、普段読んでいる本がいかに端的で抜粋されここぞを大々的に取り上げているかが分かる。勿論それが嫌いな訳ではないですが。しかし、このページ数でもまだ(理由を持って)略されている面がある訳で1人の人間を導くことにどれほどの熱量が必要か触れることになった気がする。傍聴したといっても過言ではないと思う。司法研修の教材に使われているというのがまた綿密に構成された所以かと。2018/07/13