内容説明
7年ぶりに「盛綱陣屋」への出演依頼を受けた中村雅楽。しかし、子役の演技が気になる雅楽は、なかなか出演を承諾しない。そんな折、大阪で法要に出席した雅楽と竹野記者は、帰京する新幹線で一人の少女と出会う。東京駅に着く間際に、雅楽が「陣屋」への出演を決めた訳は―。第29回日本推理作家協会賞を受賞した表題作を含む、珠玉の18編を収録。
著者等紹介
戸板康二[トイタヤスジ]
1915年東京生まれ。慶應義塾大学国文学科卒。劇評家、歌舞伎・演劇評論家、作家、随筆家の顔を持つ。江戸川乱歩のすすめでミステリの執筆を開始し「宝石」にデビュー作「車引殺人事件」を発表する。1959年「團十郎切腹事件」で第42回直木賞、1976年「グリーン車の子供」で第29回日本推理作家協会賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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geshi
37
日常の謎というミステリジャンルの祖といえる、歌舞伎の世界を内幕から見た地に足のついた短編集。『グリーン車の子供』短いグリーン車内の描写の中に潜まれた伏線が雅楽の推理によって繋がり「何が謎解きだったのか」を現出させる完璧なつくり。『密室の鎧』ミステリのお遊び的な空気に歌舞伎ならではのギミックをあてこんだ楽しさ。『一人二役』竹野記者を捜査の主体にした変化球だが雅楽の推理で事件の構図を明らかにするストライク。『美少年の死』狂気といえる殺意をあくまで物証から導いていく現実的な視線が特殊だなぁ。2021/01/04
カーゾン
16
L:先に読んだ「目黒の狂女」より殺人もあり、密室トリック(但し謎解かれても状況良く解らない)あり、トラベルミステリ的な作もあり、ずっと楽しめた。個人的には表題作より「一人二役」「臨時停留所」「隣家の消息」「襲名の扇子」「句会の短冊」が楽しめた。不謹慎かも、だが短編でも殺人が起こる方が好み。表題作について、今でこそひかり号の何本かは熱海に停まるが当時は1本も停まらなかったので、ひかりをこだまにしようとか、したらしたで却って齟齬が大きくなったとか、当時の推理文壇の中での騒ぎが知れたことは面白かったです。2024/09/24
ベルガモット
14
傑作と名高い表題作、やっと手に取りました。老歌舞伎役者・中村雅楽シリーズ。ミステリ短編の、特に安楽椅子ものとしてのお手本のようないろいろな趣向の作品が詰まっています。作風としてはちょっと地味かもしれないけれど、歌舞伎という世界の独特な美意識、役者同士の駆け引き、そういった裏側も楽しめました。表題作はやっぱり面白かったし『隣家の消息』とか話の見せ方がうまいものが多いなあと感じました。2018/03/17
てっちゃん
13
殺人事件がなくてもミステリーになるというお手本のような作品集。表題作の「グリーン車の子供」は他の作品集なんかによく取り上げられていて、子供の正体の2段構えの解決の斬れ味は何度読んでも面白い。けれど、他の方も書いていたけど、この作品以外にも、同じぐらいのレベルの作品が目白押しで、本当にはずれの作品はない。この中村雅楽の全集はまだ続きがあるので楽しみ。2022/10/26
ラグエル
12
「グリーン車の子供」を今朝ラジオ文芸館で途中まで聞いてすごく気になったので見つけて読みました。作られたようなセリフとそれについての記者の感想が確かにちょっと気にはなっていたんですけど、そういうことでしたか。解く雅楽もすごいけど、仕組むほうもすごいですよね。芝居の世界、怖い。2013/05/04