内容説明
1944年、ロンドン。夜ごと空襲の恐怖にさらされながら、日々の暮らしに必死でしがみつく女たちと男たち。都会の廃墟で、深夜の路上で、そして刑務所の中で、彼らの運命はすれ違い、交錯する。第二次世界大戦を背景に、赤裸々に活写されるのは人間の生と業、そして時間の流れと過ぎゆく夜。大胆な手法を駆使して、人間という存在の謎に迫る、ウォーターズ渾身の傑作。
著者等紹介
中村有希[ナカムラユキ]
1968年生まれ。東京外国語大学卒業。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
290
'44年の承前から、最後には'41年に遡行する。ロンドンは連日の空襲を受け「みんな、明日にも死ぬかもしれない」日々だった。それでも人々は感情生活を営んでいるし、邂逅もあれば別離もある。本書の特質の一つを、人々の戦時下での一刻一刻の行動の強固なリアリティに求めることができる。それは、ヴィヴの堕胎後のシーン、アレックの自殺のシーンに顕著だ。また、登場人物たちそれぞれの年代ごとの世界観の捉え方も実に的確だ。若いダンカンと、実際の年齢よりも老成したケイ。フィクションでありながら、彼らの確かな生の証がここにある。2016/02/20
遥かなる想い
221
すっきりしない話だった。 時代は1947年から、1944年 そして1941年へと遡る。 英国で第二次世界大戦を 必死に生き抜こうとする人々を静かに描く。 ケイ、ジュリア、ヘレンの 三人が奏でる百合の世界が まるで少女マンガのように延々と続く…だが背景に あるのは第二次世界大戦で あり、生と死なのだろうか …戦争により壊れた心の内 を読めばよいのだろうか、 正直、つかみ所がよくわからない、そんな物語だった。2015/09/23
ケイ
129
戦時下のロンドン。最初に1947年を持ってきて、その登場人物達が戦争中の1944年、1941年に、どうだったかを遡って描くことで、戦争が、空襲が、人をどう変えたかをしめす。彼らの抱える暗さの元がわかるとさらに感じるやり切れなさ。ケイの心の芯が壊れた理由、ヴィヴのうけた辛さ、ダンカンの受けた衝撃などの描写は鮮やか。しかし、その重さがある分、ヘレンとジュリア、そしてケイをも含んだレズビアン的要素は盛り込む必要性がわからない。せっかくの素晴らしい部分の足を引っ張っていると思う。2017/03/08
扉のこちら側
102
2017年262冊め。【310-2/G1000】著者の作品に毎度漂う女性同士の同性愛要素が、この作品ではほのかに、というものではないほどに押し出されている。下巻になるとそれが顕著で、ヴィヴとレジーのことなど対比させる要素があったからかもしれないが、『半身』と比べてあまり入り込めなかった。もう少し描写を抑えると、戦争が落とした影だとかが生きたかもしれない。 2017/07/16
NAO
55
時代は戦時中に遡り、ケイの活躍や、ヴィヴの堕胎シーンなどがかなりリアルに描かれていく。だが、戦時中のロンドンについては、コニー・ウィリスの『ブラックアウト』『オールクリア』を読んだ後では、少し物足りない。ただ、戦後の状況を知った上でのラストは、悲しすぎて胸にしみる2017/01/03