内容説明
美術界への転身をめざすマーティンは、本を書くため訪れた田舎で、近隣の地主から絵の鑑定を頼まれる。ジョルダーノ、ワウウェルマン―幾枚かが開帳されたあと、持ちだされたのは煤にまみれた板絵だったが、一瞥した彼の脳裏に、これまで見たことのないその絵の正体が閃く。これは巨匠ブリューゲルの未発見の真作ではないのか…?知的興奮と笑いが融け合う、独創的な物語。
著者等紹介
山本やよい[ヤマモトヤヨイ]
同志社大学文学部卒業、英米文学翻訳家
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
8
「図像学はくたびれたソファや荷造り紐で縛った車が貧しさを現すものであることを僕らに告げる。図像解釈学は単純な図像を広い意味での様式や芸術的意図と関連させて読み解く必要があることを、そしてそれが真に意味しているものは見かけと逆の場合があるということを僕らに教えてくれる」とはマーティンの言葉。2002/01/26
DearestAnna0109
4
端折って読めば単純でよくある発見された絵画の真贋を巡るストーリーなのですが、真剣に読めば15〜16世紀のヨーロッパにおける政治や宗教を背景に、そうした時代の中で生きる人々や芸術家の物語であります。 このあたりの事情を本書は読者に当然の一般常識として扱っているので、私のような無知な者はやネット検索しまくることになり、その情報を読み曖昧に理解するだけで本編を読むよりも多くの時間を費やすことになるわけです。 ですから悔しいのですがこの作品の持つ良さをどれだけ味わい楽しめたのか?というと非常に心許ない状況です。2019/03/28
madhatter
2
学問上の知識が豊富という訳ではないが、ブリューゲルは大好きなので読んでみた。正直な感想としては「絵画詐取はどうでもいい、ブリューゲルの話をしろ、ブリューゲルの」…それ程までに、数々のブリューゲル絵画の時代背景を踏まえた読み解きが面白く、美しく、切ない。第一級の美術推理小説だ。特に、あるパトロンとの皮肉で、剃刀の上を歩くような関係の考察に関しては、こんなに美しい論理によって、こんなに面白いことが言えるのなら、状況証拠だけでも、学問的に間違いでも構わない。不服と言うなら、図版がもっと多ければ良かったくらいか。2011/01/03
Hiro
1
小説の醍醐味を満喫した。サスペンス小説、ミステリ小説、ということになるのかも知れないが、とにかく物語としてよくできている。画家ブリューゲルと彼の生きた当時のオランダベルギーの社会への深い蘊蓄も興味深い。私の好きな英国の田舎が舞台というのもいい。後半の200ページくらいはハラハラドキドキのヒッチコック映画を見るような感じで夢中で読んだ。コロナ感染さえなければブリューゲルの絵を見に海外旅行したくなるのですけど。2020/11/11
いちはじめ
1
美術絡みのミステリ。なかなかスリリングな展開。2004/01/23