内容説明
年の瀬、ピーター卿は沼沢地方の雪深い小村に迷い込んだ。蔓延する流感に転座鳴鐘の人員を欠いた村の急場を救うため、久々に鐘綱を握った一夜。豊かな時間を胸に出立する折には、再訪することなど考えてもいなかった。だが春がめぐる頃、教区教会の墓地に見知らぬ死骸が埋葬されていたことを告げる便りが舞い込む。…堅牢無比な物語に探偵小説の醍醐味が横溢する、不朽の名編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
287
★★★☆☆ ピーター卿シリーズ第9作目。 多くの人がシリーズの代表作に挙げる本作だが、個人的には馴染みのない鳴鐘術というモチーフが中心になっていたこと、真相が途中で容易に察せられること、会話のテンポが他作品と比べてもっさりしていること等からそこまで好きではない。 でも重厚で怪奇的な雰囲気には惹きつけられる部分もある。解説では、本作には京極夏彦氏の『魍魎の匣』を思わせる点があることを指摘されていたが、妙に納得できた。 なお、死体が死後に損壊されたことを聞いて「すばらしい!」と呟くピーター卿はサイコパス。2022/01/12
sin
110
まるで紀行文のようにその土地を、生活史を、教会をそしてその鐘の説明を世話好きな教区長が賑々しく披露する形で、ミステリーとしての実像が掴めないまま幕を開けた物語は、墓地で発見された身元不明の死体によって一気に加速されるかと思いきや転座鳴鐘術を引き摺って中々に全貌を見せることがないようで、最後には鐘も、生活史も、その土地すらこのミステリーの重要な構成要素であった事を知らしめる。読みごたえのある一冊だった。2016/11/22
セウテス
95
ピーター卿シリーズ第9弾。〔再読〕江戸川乱歩先生がベスト作品に選んだ事で有名な本作だが、文学作品に近いと思う。亡くなった夫人を夫の墓に埋葬しようと掘り返すと、中から殺害された見知らぬ遺体が見つかる。10年前に起こった宝石盗難事件や暗号など幾つかの謎が絡み合い、イギリスの田舎の情景や鳴鐘という伝統分化の描写に至る壮大な物語であろう。タイトルは死者を送る際の鳴鐘の事で、鐘の分化に馴染みが無い私には謎解きは無理であった。個人の思惑など意に介さない、災害や奇跡という神の行いという宗教思想を、深く感じる事となった。2019/09/07
NAO
65
イングランド独特の「転座鳴鐘」という教会の鐘を数名で鳴らす技術を絡めたミステリ。イギリスの沼沢地区、かつてエメラルドの首飾り盗難事件があった小さな村、大雪の大晦日、教会の墓地、鳴り響く鐘の音。雰囲気も怪奇的なら、殺され方が最後の最後まで全くわからない。かなり大人向けのミステリだった。2022/05/25
まふ
64
鳴鍾法という聖堂の鐘の鳴らし方(日本ならば直ちに「○○流鳴鍾術」ともっともらしくなることだろう)に関する伝統的方法が土台となって物語が進められる。物語は墓地に埋められた正体不明の死体の殺人犯人を追及するストーリー。結局意外な「犯人」による死というのが名探偵ウィムジー卿の結論だった。最後に物語とは繋がらぬ水門の崩壊による村全体の大水害などがあってこの物語との関係の必然性(なぜ?)に疑問を感じたが乱歩先生を始め「古今の名作」との評価だそうなので、まあいいか、と無理やり納得(?)させられた。推理100。2022/10/05