感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
88
フレンチ警部シリーズ第8弾。〔再読〕アリバイくずしのクロフツ作品の中、タイトル通り二つの密室にチャレンジする珍しい1冊。興味深いのは、前半アンという若い家政婦の目線で物語が進み、後半になっていつも通りのフレンチ警部目線と分けている事だ。密室そのものは物理的と心理的な二つであり、代表的な密室ミステリを読んでいるなら、推理出来る範囲だろう。しかし、いつものアリバイ崩しのスタイルを、その密室殺人にした事に大きな意味が在るとは、流石クロフツ氏である。最後にきて、「充分考えておける事だったのに」とやられてしまった。2019/03/02
geshi
31
密室トリックは正直出来がいいとは言えない。一つ目は実証主義は分かるけど、キーとなる物の仕組みをあまりに詳細に描写されても読者は読み飛ばしちゃう。二つ目は犯人の存在に気づけるかどうかのみ。それより、三角関係の疑惑が生まれるスリリングさや、シビル夫人の強迫観念を信用しきれないバランスで不穏を呼び起こし、ミステリとしての仕掛けにも作用している、アンの視点で進ませた事の方が評価できる。クロフツ警部が事件の検証を徹底して行って自殺と断定しそうになった瞬間にひらめいて一気に殺人と確信するカタルシスの展開が良い。2017/06/15
本木英朗
30
英国の本格ミステリ作家のひとりであるF・W・クロフツの作品のひとつである。両親亡き後、つましく身を立てていたアン・デイは、願ってもない職を得てグリンズミード家に入った。夫人の意向を尊重しつつ家政を切り回しながら、夫婦間の微妙な空気を感じるアン。やがてグリンズミード氏の裏切りを目撃して大いに動揺し、夫人の身を案じるが時すでに遅く……という話だ。フレンチ警部とアン、二人のことを中心に話が進んでいく。いや、これはよかったよねえ。さすが作者である。大満足でした。2021/08/01
おうつき
23
クロフツの書いた密室ミステリー。タイトル通り、作中に二つの密室が登場するが、そのどちらも古典的な臭いの強いトリックであり、今読んで純粋に楽しめるという物ではなかった。だが、アンという女性が家政婦として雇われた家の不穏な雰囲気を感じ取る前半部と、フレンチ警部の地道な捜査が展開される後半部の構成が巧い。2020/11/17
Tsukamo
21
クロフツ作品初読。タイトル通り二度の密室殺人が起こり、フレンチ警部が推理するというストーリー。この二つの密室殺人のトリックが、現在では使い古されているトリックという古典ミステリにありがちなものだったけど、個人的にはそういうのは気にならないので問題なく楽しめた。フレンチ警部はホームズやクイーンなどの所謂「天才型」の探偵ではなく、警察らしく足で情報を集め捜査を行うタイプで、しかも上の席を狙うなかなかの野心家。人間味に溢れていて好感を持った。一部の作品を除きクロフツ作品がなかなか手に入り難いのが残念。2018/10/07