内容説明
遠い十二月の夜、失われた金貨は一羽の黒鳥によって鮮かに呑みこまれた…。黒鳥館主人・中井英夫にとって黒鳥とは何の謂だったか。“恥”の記憶に苛まれ続けた戦後への挽歌「黒鳥譚」のほか「蠅の経歴」「燕の記憶」「青髯公の城」、短篇集『見知らぬ旗』『黒鳥の囁き』、連作長篇『人形たちの夜』を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぐうぐう
18
『黒鳥譚』『見知らぬ旗』『黒鳥の囁き』『人形たちの家』、4つの小説集を収録した全集2巻。それぞれ微妙に、あるいはあからさまに、スタイルもムードも違う小説集だが、中井英夫の主題は統一されている。これら小説集を貫いているのは、戦後に対する違和である。戦争さえ終わればと、中井が戦後に期待し信じていたのは、世界の反転だった。しかし少なくとも日本において、戦時も戦後も劇的な変化は訪れなかった。その失望はやがて、中井に恥辱を抱かせる。(つづく)2015/01/02
rinakko
7
ゆっくり読んでいた。戦後への違和感、繰り返される“恥”の言葉は重い。死への志向、倒錯と背徳…。短篇では「銃器店へ」や「死者の誘い」、「黒鳥の囁き」が好き。連作による長篇『人形たちの夜』もよかった。2014/07/04
ふくしんづけ
6
何と言い表したらよいかこの、贅沢な旅、豪華絢爛の極致、違う、覗き見ている、これは記憶、鮮明なほど朧げに、濃密であるほど心許ない、掴めそうで掴めぬ、記憶の海の底で転がって、丸くなった原石の宝箱、こんなに贅沢でよいのか。 ①黒鳥譚/なんと言っても『青髭公の城』。幻想的筆致の下に、ヌーヴォーロマンらしさのある。映画的技巧で描かれる視覚的すれ違い。夫人と少年の出会いの場面、その関係性の不安定さ、小説自体のトリックが露呈する瞬間は圧巻である。『蠅の経歴』唐突とも読める結末も、丹念に書かれた状況の上に活きる。2020/10/26
mnagami
1
『虚無への供物』で有名な著者だが、中井英夫の考えがうっすらと理解できる作品だった。当時の価値観に対してのアンチテーゼが伺える2017/05/06
aki
1
『中井英夫作品集(『虚無への供物』を除き、初期作品の「蝿の経歴」「燕の記憶」を加えた)』と第一短編集『見知らぬ旗』、第二短編集『黒鳥の囁き』を収録した初期単行本の集成。「とらんぷ譚」のバリエーションともいうべき『人形たちの夜』も収められている。中井の作品では1、2を争う『見知らぬ旗』と『黒鳥の囁き』が収録されているので、オトクな一冊だ。『人形たちの夜』は『悪夢の骨牌』同様、オムニバス長編といってもよいかも。『黒鳥譚』は同タイトルの講談社文庫版とは内容が異なる。2017/01/03